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i.school創設者 田村大氏が語る「イノベーションの生態系とデザインの未来」

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先日、東大i.school共同創設者で博報堂イノベーションラボ研究員という経歴を持つ、田村大氏の講演会を聴いてきました。
テーマは、「イノベーションの生態系とデザインの未来」。

田村氏は現在、RE:PUBLICという会社を立ち上げイノベーションの研究をされています。

産業技術大学院大学主催の「デザインミニ塾」という無料講座でしたが、120人ほどの聴講者の方がいて、過去最多だったそうです。「イノベーション」のヒントを求めに、日本企業の方々がたくさん聴きに来たのでしょう。

僕は「大企業でどうやってイノベーションを起こせるのか」という視点で話を聴いてきました。

以下、講義内容です。

 

「イノベーションの生態系とデザインの未来」

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photo credit: Hampton Roads Partnership via photopin cc

イノベーションとは何か?

はじめに、「これがイノベーションだ!」と思う例を3つメモしてください、というエクササイズから始まりました。よろしければこの記事をお読みの方も、頭の中で思い浮かべてみてください。

 
僕は、「飛行機」「iPod」「iPhone」という3つのモノが思い浮かびました。Apple万歳。
3つをメモしたあと、隣の席の人と内容をシェアしました。

隣の方が思い浮かんだのは、「宇宙飛行」。スケールがでかい。

そして、「どれが一番のイノベーションか?それはなぜか?」ということを話し合いました。
なかなか一番を選ぶのは難しい。普通の人に身近な方がよりイノベーティブなのか、テクノロジーを駆使した未踏の地への開拓の方がイノベーティブなのか。

このエクササイズに答えはありませんでしたが、イノベーションとは何か?を考えさせられる良いアイスブレイクでした。

 

イノベーションはこう変わってきた

大阪万博のスライドが映し出され、「大阪万博で一番行列ができた展示物は何か?」という質問がありました。答えは月の石。当時は「アポロ11号」が月に行ったことがイノベーションだったとのこと。

一方、田村氏が東大i.schoolで女子学生から聞いたイノベーションがとても印象に残ったそうです。彼女にとってのイノベーションとは、「ジェルネイル」(←クリックすると画像検索に飛びます)。初めて聞きましたが、女子にとっては1ヶ月間もつジェルネイルは画期的でイノベーティブだったとのこと。

この2つの話からわかること、それは、イノベーションはPublicなものからPrivateなものへと変遷したということです。

その結果、イノベーションは個人の嗜好によるところが大きくなり、多様になりました。同時に、科学技術からのイノベーションは過去のものとなりました。

ここで、最初のアイスブレイクを思い出すと、まさに「iPhone」は個人、「宇宙飛行」は科学技術に由来しています。はじめの数分の話し合いのおかげで、すっと理解することができました。

 

“私達の”イノベーションの定義

公衆レベルの話から、個人レベルの話となったイノベーション。そんな「私達」のイノベーションを、田村氏は以下のように定義します。

イノベーションとは、「人間の行動・習慣・価値観に不可逆の変化をもたらすアイデアの普及」である

確かに、iPhoneを手にしたらもうタッチスクリーンのない携帯電話には戻れないし、アプリのない生活は考えられません。「不可逆」というのがポイントですね。

 

IDEOによるイノベーション事例

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Photo Credit: IDEO

ここで、イノベーションの具体例が紹介されました。

Bank of America がIDEOと協働して2005年にローンチした、”KEEP THE CHANGE” という口座アカウントのサービスです。2006年にアメリカのイノベーターアワードも受賞。

サービスの内容を簡単に説明すると、何か買い物をした時、お釣りのセント部分をあらかじめ指定しておいた貯蓄預金に回すことができる、というものです。これにより、ユーザーの貯蓄額も増え、レジもよりスピーディに回るようになったとのこと。

エスノグラフィ調査からインサイトを得て、アイデアにつなげたそうです。

参考:“Keep the Change” Account Service | IDEO

 

アイデアとイノベーションの関係

上記事例を踏まえ、「イノベーションを生むための2つのアプローチ」の説明がありました。

prospective(前のめり)アプローチ

・アイデア → 新しい行動・習慣・価値観
・“Winner takes all” model

Retrospective(後のめり)アプローチ

・アイデア ← 新しい行動・習慣・価値観
・Empathetic understanding model
・社会的現実 自分事になる

先のIDEOの事例は、後者にあたります。田村氏は博報堂イノベーションラボでエスノグラフィをどうデザイン・開発に活かすかに取り組んでいたため、後者の”Retrospective Approach”を推進されています。

 

エスノグラフィからインサイトを得るコツ

ExtremeUsersPhoto Credit: IDEO

続いて花王での事例を紹介していただきました。テーマは「アンチエイジング」。

プロジェクトのはじめに、IDEOやFrogでも実践されている「“extreme”ユーザーインタビュー」を行い、インサイトを得たとのこと。

エクストリームユーザーとは、文字通り「極端な」ユーザーのこと。大多数の考えを代弁しそうな中間的な性格や嗜好の人ではなく、調査テーマに関して強い思い入れや嫌悪を持っている人たち(=上図の外側の人たち)と対話することで、思いがけないインサイトが得られます。

「若くして糖尿病にかかり食事制限を強いられている男性会社員」「20歳ながら老母役を得意とする舞台女優」といった方々から、キーインサイトと機会領域を得て、アイデアにつなげたということです。

参考:事例データベース – 花王,消費者調査にエスノグラフィー手法を導入:ITpro

 

企業でどうイノベーションを取り入れるか?

そして、話は最近の田村氏の研究内容に移りました。

田村氏は現在、「シリアルイノベーター」と呼ばれる人々を集めて、大企業の中でどうイノベーションを起こせるかを研究しているそうです。

シリアルイノベーター(Serial Innovator)とは、社内で2回以上イノベーションを起こしたことのある人。以下の本に詳細が書いてあるそうです。日本語訳は3/28発売とのことなので、発売したら手にとってみたいと思います。

 
2014年4月26日追記:邦訳版が発売されました。

 
大企業の移り変わりについても話がありました。はじめは「企業の論理 = 社会的現実」だったのが、時間が経つと「企業の論理 ←→ 社会的現実」と乖離していく。しかしその間にこそイノベーションがある、とのことです。

企業の論理と社会的現実

シリアルイノベーターに共通することは、「会社の基準ではなく外の基準を知り、外の基準を社内に持ってくる」というプロセスだそうです。

ただし、シリアルイノベーターが辞めてしまうと、外の視点が途絶えてしまいます。それにどう対処すべきかが目下の研究とのことでした。

 

福岡型イノベーション創出モデル

最後に、最新のプロジェクトを紹介してもらいました。「イノベーションスタジオ福岡(仮称)」というものをコペンハーゲンと一緒につくろうとしているそうです。

福岡には大企業がないため、イノベーションの主語は「自分」。(東京だと「企業」。)

市民力 → 価値創造 → ライフスタイルの変革 → 市民力 ・・・

というループを市民主体で巻き起こしていくイノベーションプロジェクトです。パイロットプロジェクトとして、 障がいを持つ子どもたちに対しての新しいアプローチに取り組んでいるとのこと。

コペンハーゲンという世界都市を巻き込んでいるというのがすばらしいと思いました。今後、どのような成果に結びつくのかがとても楽しみです。

 

結び:デザインの未来

結びとして、デザイナーがイノベーションを起こす上で必要な力に言及されました。それは、
「社会の課題からイノベーションを起こす力」

デザイナーが社会を見つめ、課題を発見してイノベーティブな解決策を提示していくことが、デザインの未来を変え、社会を変えていくことでしょう。

 

質疑応答

Q.シリアルイノベーターは「出る杭は打たれる」という状況にどう対抗している?

A.シリアルイノベーターたちは、「あなたは変な人ですか?」と聞くと、「変な人です」と答える。それでやり抜く。そして皆に愛されている。
自分の価値基準が社会の問題と照らしあわせてはっきりしていると、社内で貫き通すための説得材料となる。

 
Q.3.11以降、「ソーシャルデザイン」と言葉をよく耳にするようになった。デザイナーが自ら社会問題を解決していくという活動。しかしマネタイズはどうするのか?

A.クラウドファンディングとか。WHILLの例だと、東京モーターショーで発表して海外メディアに取り上げられた。その他、企業が個人と一緒に取り組める環境をつくりたいと思っている。

 

所感

「シリアルイノベーター」という言葉を初めて聞き、印象に残りました。大企業内で複数回イノベーションを起こすのは、並のモチベーションではできません。ぜひ邦訳版を読んでみたいです。

また、「イノベーションはPublicからPrivateへ」という話や、「Retrospective アプローチ」という話は、普段あまり考えたことがなかったので新鮮でした。

いつかイノベーションを起こしてやるぞ、という気持ちが強まった90分の講義でした。

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  • Hiroki Hosaka

    メーカー→ベンチャー勤務のUXデザイナー。このブログではデザインやUXに関するクリエイティブネタを発信しています。さらに詳しいプロフィールはこちら

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