『Lean UX ー リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン』刊行記念セミナーレポート at GREE

(2014/06/02 更新) UXデザイン | , ,

Lean UX

先日、『Lean UX – リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン』刊行記念セミナー at GREE に参加してきました。

Lean UX とは、リーン・スタートアップアジャイルデザイン思考の概念を取り入れた開発プロセスのこと。「不確実性が極めて高い」状況にあるチームに対して有効とされています。

今回のセミナーはこの日本語版刊行記念として開催されました。参加者はなんと約400人。注目度が高いことが伺えます。

登壇者はMerryBiz工藤氏、監訳者のコンセント坂田氏、edinity松井田氏、GREE村越氏。

テーマは「企業文化をデザインする」ということで、いろいろと考えさせられました。

以下、お話の内容をご紹介します。

 

Lean Startupの実践と難しさについて by 工藤博樹氏(MerryBiz/LSM Tokyo)

はじめの登壇者、工藤氏は東工大→IBM→MBA取得→Locondo立ち上げ→GREE→リブ株式会社設立、という経歴の持ち主。

MerryBizという会計サービスを運営する傍ら、LSM (Lean Startup Machine) Tokyoというリーン・スタートアップに関するワークショップの日本のオーガナイザーもされています。

LSMでは、Validation Boardというツールを使い、Customer(顧客)、Problem(課題)、Solution(解決策)の仮説検証を行っていくそうです。

Validation Board 3 6 2

“GET OUT OF THE BLDG(BUILDING)”という文字が目立ちますが、建物の外に出て突撃インタビューをするなどしてピボットを繰り返し、アイデアを発展させていくとのこと。

参考:Lean Startup Machine Tokyo(リーンスタートアップ・マシーン東京) – UXploration

LSMの説明の後、デザイナーではなく経営者の立場から、MerryBizでLean UXをどう実践しているのかを語られました。

Lean UXを実施する上で困難だったことは、「チームメンバーと同じ言語をしゃべること」だったそうです。

チームメンバーには実際に会ったこともない方もいるそうで、共通認識を合わせるのが大変だったとのこと。コミュニケーションツールを少しずつ整えることで解決していったそうです。

 

Lean UX: 組織文化をデザインする by 坂田一倫氏(コンセント)

続いて、Lean UXの監訳者である、コンセント坂田氏のお話です。

坂田氏は、Lean UXを一言で説明するならば「組織文化をデザインする」ことだと言います。企業文化を見直すことが結果的に無駄を省くことになる、という提言です。

ここで紹介されたのが、Yahoo! CEO マリッサ・メイヤー氏の話。メイヤー氏はCEOに就任後、従業員に対して在宅勤務を禁止し、会社に来て物理的に場所を共有するよう命じたそうです。その結果として、Yahoo!の株価は1年で74%改善。

この話はまさにLean UXの原則の1つ、「同一場所」を実践しており、それはまさしく「企業文化をデザイン」したことにほかなりません。

Lean UXのマインドセット

続いて、Lean UXの考え方について4つ言及されました。

1. 「どのようにつくるか」ではなく「どのような”もの”をつくるか」。

・無駄をなくすことが目的ではない。

・HCDを回す、といった手段が目的化してしまうと本末転倒なのと同じ。

 

2. 「問題解決」よりも「問題の発見と定義」に重きを置く。

・正しい問題を解決しているか?と問いかける。

・HCDは問題解決。問題解決に目が行きがちだが、間違った問題を解決しても意味がない。

 

3. 「足の引っ張り合い」から「助け合い」文化の醸成へ。

・コラボレーティブな体制、透明性が大事。

 

4. Lean UXは、「学びのエンジン」である。

・ユーザーから、そしてメンバーからの「学び」を促進する。それぞれの観点を持ち寄って前提を明らかにすることで発見が得られる。

・Lean Startup は「成長のエンジン」。

 

C-P-S Hypothesis

そして、「CPS仮説検証モデル」が紹介されました。これは先に紹介したLSMのValidation Board でも出てきましたね。

Slide 17 638

この3つはサービスを考える上で必須の要素です。Lean UXでは、それぞれ以下のツールを使うことでそれぞれの仮説を検証していきます。

・Customer → プロトペルソナ

・Problem → 6up Sketches

・Solution → リーンキャンバス

この辺りの話は坂田氏のこちらのスライドに載っています。

クロージング

最後に、最近行われたハッカソンの様子が紹介されました。皆で助け合いながら、10時間でアプリのプロトタイプを作ったとのこと。これが本来ものづくりがあるべき姿であると坂田氏は主張します。

大企業だとブランドや品質保証に気をつけるあまり、スピードが遅いことが往々にしてあります。

そんな企業のサイロをLean UX マインドで壊して新たな文化を築くべき、という話で講演を締めくくられました。

 

すばらしいUXは、どこから生まれる? by 松井田彰氏(Ednity)

3人目は、UIデザイナーの松井田氏。教育系のスタートアップednityでLean UXを実践されています。

ednityについて

・コンセプト:学習環境をリ・デザインする

・従来の知識伝達モデルを変えていく

・education + community = ednity

 

Lean UXの実践

ednityは、ファウンダー、デザイナー、エンジニアを含めた全5人で構成されているそうです。そのうち3人は、スタンフォード大学のd.schoolで出会ったとのこと。そこから起業にいたるなんて素敵な話です。

ednityではLean UXを次の4つのステップで実践されているそうです。

1. デザインスタジオ

・どのようなシーンで使われる?どのような体験がふさわしい?を5人で話し合う

・画面イメージまで描く

2. ペーパープロトタイプ

・テストして修正の繰り返し

3. グラフィック or コードプロトタイプ

・2つをを平行して進める

4. プロダクト

・決定したデザインの実装に向けてコードを書く

 

Lean UXで学んだこと

1) 思考プロセスの共有 → 一緒にやることが大事

2) 多くの創発性 → 1人のデザイナーだと限界がある

3) チーム全員が責任を持つ → メンバー全員がUXについて責任を持つ

4) プロダクトの質の向上

5) 無駄な中間制作物の排除

“UX”というとアカデミックなワードが並ぶ印象だが、それを噛み砕いて伝えるのがデザイナーの役割、と松井田氏は言います。

また、社内向けにWSを企画したり、Lean UXを実践しやすい場をつくることも必要とのこと。

具体例)いつもの会議にポストイットを置いてみる。それだけで自発的な意見を生み出せる。お菓子とか置いてみる。音楽をかけてみる。

このように1つ1つ小さなことを試してみて、学んでいくことが大切。創造的なチームはUXから生まれる、というお話でした。

 

パネルディスカッション with 村越悟氏(グリー)× 工藤氏 × 松井田氏 × 坂田氏

最後に、上記登壇者3名と、グリーのシニアUXデザイナー村越氏がファシリテーターとなってパネルディスカッションが行われました。以下、敬称略でメモを載せます(書き取れなかったコメントもあるのでご了承ください)。

村越:文化をつくるツールやプロセスは持っていても、それを使う空気がないと難しい。Lean UX を推進しようとしてもスタックすることがある。どうすべきか?

坂田:役員にはユーザーインタビューを直接見せるなどして、必要性を理解してもらうのが早い。また、場づくりを率先して行うファシリテーターは最も重要。

村越:ファシリテーションで気をつけていることは?

坂田:プロジェクトルームを作って付箋を張ってくなど、場に入りやすくする雰囲気をつくる。UXを導入するには以下の3つの方法があると考えている。
・ワークショップ
・研修に組み込む
・プロジェクトのファシリテーションをする

村越:組織横断でUXに取り組むにあたって、上司や経営陣にどうやって「投資対効果」を伝えればよいか?

坂田:費用対効果と言う人は信用できない。(一同笑) 文化をつくるのに費用は関係ない。

村越:効果をどういうふうに説明すべきか?

坂田:コスト削減を説明する。まずやってしまってコストがなくなったことを説明する。それを可能にした文化がどういうものなのかを説明する。大きい企業でやるには、まずは部署内でやる。関わる人達にその効果を伝えていく。

坂田:アメリカのBalance Team Conferenceでは、3人チームが良いとされる。ビジネス、デザイン、システム。意思決定者を決めて進めるとうまくいく。握手の回数は3人だと3回だが、4人だと6回になり、コミュニケーションコストが増える。

村越:草の根的な活動に近い?

坂田:そうです。

松井田氏:スタートアップでは、ファウンダーの考え方が存続する。はじめからLean UXの考え方を導入すれば、グロースした後もその文化が残る。

村越:文化に込めている想いは?

坂田:文化は企業における生活そのもの。合理化のために組織を分けたが、スピード感がなくなった。

松井田:小さいチームだと人柄が文化になる。どんな人にジョインしてもらうかが大事。

 

所感

Lean UXへの理解が深まったセミナーでした。僕は原著と日本語版で2回読んでいましたが、やはり実践されている方々の話は生々しく、参考になる話を聞けました。

坂田氏も言及されていましたが、やはりUXを広めるにはファシリテーション能力が重要だと感じています。ファシリテーション能力を上げるにしても、まずは「実践あるのみ」です。

「企業文化をデザインする」ために、まずは小さなところから、身近な環境を変えていくところから始めていきたいと思います。

 
以下、本セミナーのレポート記事(外部リンク)をご参考までに載せておきます。

【イベントレポ】Lean UX――リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン』刊行記念セミナー | 自由エンジン

LeanUXセミナーから学ぶ、デザイニング文化の重要性|Push-up

「Lean UXとは組織文化をデザインすること」監訳者が明かす、UXデザインの本質|エンジニアtype

Hiroki Hosaka

AIベンチャーのUXデザイナー/デザインマネージャー/CXO。メーカー→IoTベンチャー→外資系デザインコンサルを経て現職。このブログではデザインやUXに関するクリエイティブネタを発信しています。
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