ソシオメディア篠原稔和氏の「UX戦略」講義が参考になった @ヤマケン展2014

(2014/12/29 更新) UXデザイン | , ,

先日、千葉工業大学の山崎研究室のデザイン展示発表会(ヤマケン展)内で開催された、「エクスペリエンスと戦略」という講演を聴いてきました。

特別講演「エクスペリエンスと戦略」
・「ユーザー・ストラテジック・エクスペリエンス」:ケビン・クラーク(Content Evolution・代表)
・「ユーザーの心を動かすエクスペリエンス戦略」:篠原稔和(ソシオメディア(株)・代表)
・「体験を考慮した戦略」:山崎和彦(千葉工業大学・教授)
ヤマケン展2014のWebサイトより

個人的に「UX戦略」にとても注目しており、この中でも特にソシオメディア代表の篠原稔和氏の講義が印象に残ったので、ここで共有します。

 

「ユーザーの心を動かすエクスペリエンス戦略」by ソシオメディア代表 篠原稔和氏

ユーザーエクスペリエンスの定義

まずはUXのお話。篠原氏はUXを下のような図で定義されています。

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UIはユーザーとシステムを結ぶ境界面、UXはユーザーとシステムとの間に介在する総合的体験、といった感じ。UIとUXの関係を形状で表現しているのが面白いと感じました。

そして、UXタイムスパンのお話。UXを考える際は利用中だけでなく、利用前、利用後、利用時間に全体も考慮する必要があります。

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最近では、スマホの台頭により「予期的UX」から「瞬間的UX」に移るまでの時間が短くなっているとのことです。

例えば、帰りの電車で「◯◯のことを調べたい」と思ったとします。かつては行動に移す(帰宅してPCで調べる)までの時間がかかっていましたが、今はスマホによって思いついたことをすぐに行動に移せる時代となりました。

この辺り、UXと時間軸の話はこのブログの別記事でもまとめています。

参考:UXと時間軸についての考察:「UXタイムライン」と「UXタイムスパン」を活用してUXデザインを語ろう

 

ユーザーの心を動かすとは

続いて、ユーザーの話に移りました。初めに言及されたのが、「インバウンド・マーケティング」視点でのユーザーの区分けです。

インバウンド・マーケティングでは、ユーザーを「接点のない顧客(Strangers)」「潜在顧客(Visitors)」「見込顧客(Leaders)」「既存顧客(Customers)」「ファン優良顧客(Promoters)」という5つの分類にしているそうで、それぞれ次の段階に移行してもらう際には「惹きつける(Attract)」「転換させる(Convert)」「顧客化する(Close)」「満足させる(Delight)」というアクションが必要とのこと。以下の逆ピラミッド図がわかりやすいです。

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一般的に「ユーザー」と呼ばれる人たちは、このピラミッドで言う「既存顧客」に該当します。

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ここで、「ユーザビリティ」という言葉は「既存顧客」に対しては有効に機能しますが、その他の顧客にはうまく機能しません。(まず使ってもらわないと意味がない、ユーザビリティだけでは心が動かされない。)

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そこで、心を動かす「ユーザーエクスペリエンス」をデザインすることが、接点のない顧客を引き込みファン顧客にまで育てる原動力になります。

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UX戦略の道

そしていよいよUX戦略の話。

篠原氏のUX戦略の定義は以下です。

UX戦略とは、企業戦略として顧客の経験価値を積極的にマネジメントすると同時に、企業戦略の中核にUXを捉えるための組織と活動を管理、運営、推進すること

もう少し柔らかく表現すると、UX戦略は「企業戦略にUX視点を取り入れる活動」と言えるでしょう。

この「UX戦略」は昨年アメリカで急浮上してきたテーマであり、UX STRAT という世界初のUX戦略に関するカンファレンスが昨年アトランタで開催されたのも記憶に新しいです。カンファレンス内容については以下のスライドが参考になります。

めまぐるしいスピードで変化する現代、ユーザー体験にフォーカスを当ててビジネスを推進する「UX戦略」の考え方は、今後ますます重要になるでしょう。そのためには、UXを語れる・UXをデザインできる人材の育成が欠かせません。

篠原氏は「UX戦略の道」と題して、UXのエキスパートになるための具体的方法を提示くださいました。

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スライドには4つ書いてありますが、このブログでは1と2を併せて説明します。

1. 各種手法・メソッドをマスターする

まずはどんな手法があるかを学ぶところから。以下の情報ソースを紹介してもらいました。

・Usability Methods Table
[browser-shot url=”http://www.usabilitynet.org/tools/methods.htm” width=”250″]

→ユーザビリティ関係のツール集。

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・Universal Methods of Design

→原題は『Universal Methods of Design』でしたが、邦題では『リサーチデザイン』となっています。

 
・A Taxonomy of Innovation

[browser-shot url=”http://hbr.org/2014/01/a-taxonomy-of-innovation/ar/1″ width=”250″]

→イノベーションに向けてのツール選択支援

 

2. 手法を状況に合わせて使えるようにする

手法を学んだら、使わないと効果を確認できません。UXマップ(エクスペリエンスマップやカスタマージャーニーマップとも言う)は比較的どのプロジェクトにも取り入れやすい手法かと思います。

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3. メソッドを状況に合わせて作れるようにする

正直、これが一番大事かと思います。

普段のプロジェクトには様々な背景・人・条件などが複雑に絡み合っており、習得した手法をそのまま使えるシーンは限られます。状況に応じてメソッドを作り出し、それを活用してプロジェクトを成功に導くことがUXエキスパートに求められる一番の能力です。

 

最後に

最後に、「ヤマケンの皆さんへ」というスライドで、講演は締めくくられました。

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「知識やノウハウや体験を向上させていきましょう!」
「組織の仲間・同僚・上司に知識やノウハウを伝えていきましょう!」
「組織のトップや経営層に価値を伝えていきましょう!」

このメッセージは地味に心に響きました。企業戦略にUX視点を取り入れるには、まさにこの地道なステップが必要です。僕自身ももっともっと知識・ノウハウを向上させどんどん周囲に発信していこうと改めて決意しました。

 

おわりに

以上、ソシオメディア篠原氏のUX戦略に関する講演内容をご紹介しました。

UXの視点を事業戦略として取り入れる日本の企業は少しずつ増えてきた気がしていますが、まだまだ足りていないと感じます。

UX戦略は疲弊した日本企業を元気にする起爆剤だと僕は本気で考えていますので、今後も情報収集・発信していきます。

Hiroki Hosaka

AIベンチャーのUXデザイナー/デザインマネージャー/CXO。メーカー→IoTベンチャー→外資系デザインコンサルを経て現職。このブログではデザインやUXに関するクリエイティブネタを発信しています。
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