ボウサイダー代表が語る、慶應SDM流 地域イノベーションの起こし方②

(2014/05/25 更新) イノベーション |

こんにちは、@h0saです。

前記事に続き、「ソーシャルデザインとデザイン思考 ~社会的課題をいかにデザイン的に解決するか~」という講演会の後半内容をご紹介します。

前半: i.club代表が語る、東大i.school流 地域イノベーションの起こし方①
後半: ボウ・サイダー代表が語る、慶應SDM流 地域イノベーションの起こし方②【この記事】

後半は、慶應SDM(システムデザイン・マネジメント研究科)に在籍されており、ご当地ボウサイダー制作委員会コンセプター兼代表の川島勇我氏によるお話でした。

かなり駆け足のお話だったのでメモを取るのも精一杯でしたが、記録できたところを中心にお伝えします。

なお、はじめにアニメを見せられて「何だこれは?」とやや引いてしまったのですが、話を聞くとれっきとしたイノベーションのお話でした。この記事も最初で離脱せず最後までお読みいただければと思います。

 

鎌倉戦隊ボウサイダーについて

Main

参考:鎌倉戦隊 ボウ・サイダー ~災害時、子ども死者ゼロを目指す~

・ボトムアップ型で持続可能な、防災システムを地域で作る仕組み

・キャラクターマーケティングから子どもたちに防災意識を高める
→結果、ボウサイダーというコトバ、サイダーが生まれた

・慶應SDM内のコンテストでで最優秀賞受賞

・How do you decide innovation?
→みんなの多数決 or 誰かの主観

⇒今回の講義でボウサイダーの存在を初めて知りました。防災を啓蒙する飲み物としてサイダーを売り、鎌倉を訪れる観光客に避難所情報を提供するツールにもなるそうです。確かに今までにない切り口ですね。

イノベーションを決めるのは結局「みんなの多数決」か「誰かの主観」しかない、という川島氏の主張も印象的でした。

 

結論:5つのポイント

1. “思考のクセ、思い込み、主観” を見える化する方法

2. 問題や世の中を構造(システム)として理解する方法

3. 24時間365日、止まらずに思考し続ける方法

4. “今までみんなが気づかなかった” を見つける方法

5. 地域コミュニティに進行形アクションで対話する姿勢

 

システム思考×デザイン思考

・誰かの「面白い」は 目的、範囲、切り口 に分けられる

目的 切り口 範囲

・イノベーションを決める「誰かの主観」すなわち「あなた」の思考のクセを変えることで、イノベーションが起きる

思考のクセ

・慶應SDMではシステム思考とデザイン思考(左脳と右脳)のハイブリッド思考でイノベーションを考える。ロジカルとカオスのハイブリッド状態維持が創造性を高める。

構造的混沌

⇒このあたりの話は、ZIBA濱口秀司氏が主張されている話ですね。慶應SDMにも特別招集委員として関わられているそうです。本ブログでも記事にさせていただきました。

参考:イノベーションを考えるために明日からできる3つのこと ー 濱口秀司氏の講演動画を見て | UX INSPIRATION!

また、慶應SDMでのイノベーションの作り方を説明しているこちらの本も参考になります。

 

ビジネスケーススタディ

日本人の畳離れを食い止めるプロジェクト事例

・現状分析と未来創造を繰り返す

現状分析と未来創造

・アイデアが受け入れられる土壌をつくることが大事

⇒このあたりはプレゼンが速かったのでメモがほとんど残っていません。なんとなく、システム思考をデザイン思考を使うにしても、図やチャートを使って情報やアイデアの整理をしていることがわかります。

 

鎌倉戦隊ボウサイダー誕生の背景と問題

背景

・東日本大震災での釜石市の小中学生の生存率は99.8%だった。その理由が三陸地方に残る「津波てんでんこ」という教え。津波があったら「自発的に逃げる!」意識の教育。
→「まず自分が逃げる勇気」を日頃から教える地域社会を創ることが災害時の高い生存率を実現する

・地形が似ている鎌倉・湘南エリアの子どもたちにも、「想定外」を生き抜く力を身につける防災教育が必要

 

2つの問題

・子どもの数が多い(釜石市の5倍以上、コストが大きくなる)
・大人が不真面目(大きな被害から時間が経ち当事者意識が希薄)

→イノベーションが必要。

 

イノベーションが生まれる必要条件

1. 見たことも聞いたこともない
2. 実現可能である
3. 物議を醸して対話を巻き起こす

イノベーションが生まれる必要条件

イノベーションが生まれる必要条件2

⇒こちらも濱口秀司氏の理論ですね。

 

ボウサイダーのイノベーティブな活動

・自ら収益を上げる地域の防災活動となる
→物議を醸す

イノベーションが生まれる必要条件3

・物議を醸したものは、解決したらイノベーションになる
→ボウ・サイダー啓蒙活動を行った

・鎌倉を拠点とする面白法人カヤックやkamakon valley鎌倉市限定クラウドファンディング1192(イイクニ)と連携

・”災害前ボランティア”の意識を持つ人を増やす

災害前ボランティア

・日本人は寄付しない国民(寄付型はREADY FORも困っている)
→サイダーという”モノ”を見返りとして、災害前ボランティア活動の賛同者からお金を得る

寄付の見返りとしてのサイダー

⇒このあたりはうまいなぁ、と思いました。欧米だと寄付文化が根付いていますが、日本にはあまり寄付文化がありません。(僕自身も苦手です。)「サイダー」という目に見えるモノを媒介して、活動への賛同としてのお金を出す。そのサイダーは、地元のビール工場でOEMで造られていたりする。そして子どもも飲みたくなる飲み物であり、キャラクターマーケティングとして展開。まさにシステム全体がデザインされている印象です。

 

ボウサイダー活動のこれから

・災害前ボランティアをエンターテイメントに変換して、地域に効率よくインストールする
→音楽フェス×避難訓練 を試した。

息をするようにプロトタイピングする

プロトタイピングは線形プロセスではなく同時並行

プロトタイピング

⇒よく、デザイン思考のプロセスというと、左図のような線形プロセスを目にすることが多いですが、そうではないとのことです。地域イノベーションはすべてが進行形で、息をするようにプロトタイピングしているとのこと。

この考え方は、仮説と検証を繰り返すLean UX的なプロセスに近いと思いました。

次は街コン×避難訓練を計画中?だそうです。

 

全国展開へ

・海が近いところの子どもたちへ向けての戦略に特化

・サイダー飲料全国発売

・ボウサイダー体操構想中 

 

おわりに

前回の内容と併せて振り返ると、地域イノベーションの起こし方として共通するのは「子どもへアプローチする」という方法です。子どもはその地域の今後を担うかもしれない大切な資産であり、イノベーション教育への重要性を感じました。

また、質疑応答のところでも話題に挙がったのですが、イノベーションを受け入れる土壌をつくることもまた大切です。外部からのイノベーションよりも、内部からのイノベーションの方が共感が生まれやすい。その点で子どもへアプローチすることは共感を得る上でも大切だと思いました。

Hiroki Hosaka

AIベンチャーのUXデザイナー/デザインマネージャー/CXO。メーカー→IoTベンチャー→外資系デザインコンサルを経て現職。このブログではデザインやUXに関するクリエイティブネタを発信しています。
詳細プロフィール