東京モーターショー2015を観て感じた、クルマを取り巻くUXデザイン3つのトレンド

こんにちは、@h0saです。

11月上旬に開催されていた東京モーターショー2015を駆け足で観てきました。周りの人が足を止めて新車やコンセプトカー、お姉さんの写真を撮る中、僕はとにかく新しいUXやインタラクションのみに焦点を絞って、1時間半歩き回りました。

ちなみに2年前の前回も、UIのトレンドを3つにまとました。(参考:【東京モーターショー2013レポート】UIデザイナーが感じた3つのトレンド | UX INSPIRATION!

今回ざっと周ってみて、UXやインタラクションデザイン観点で感じたトレンドは以下です。

1. 自動運転による車内体験の多様化

2. パーソナルアシスタントの二極化

3. クルマの外とのコミュニケーション

 
それぞれ、具体例を交えて印象に残った展示をご紹介します。

 

1. 自動運転による車内体験の多様化

GoogleやAppleといった非自動車メーカーが自動運転を開発しているのは周知の通りですが、日本の自動車メーカーもいろいろと可能性を模索しているようです。

以下の展示で多様化する車内体験の一部をを垣間見ました。

Nissan IDS Concept

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自動運転の展示に特に力を入れていたのは日産です。IDS Conceptとして、自動運転の未来を提案していました。(あまり良い写真が撮れなかったので、日産のTwitterや公式サイトから写真を引用させていただきます。)

こちらの車のコンセプトは、マニュアル運転時と自動運転時で車内の空間がトランスフォームすること

マニュアルドライブモード:
従来の車と変わらないハンドルで操作するUI
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パイロットドライブモード(完全自動運転):
ハンドル部が液晶モニターに変形てAIアシスタントと会話可能に、シートの向きもコミュニケーションしやすい向きに
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コンセプトムービーも参考になります。

また以下の記事で、IDS Conceptについて詳しく考察されています。

参考:モーターショーで自動運転の未来を垣間見る:日経ビジネスオンライン

こちらの記事によると、自動運転は次の4つの段階に分類されるそうで、

(1)部分的な自動化:自動ブレーキ、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)、LKS(車線維持支援)など、自動運転に関連する単独の機能を搭載。
(2)複合機能の搭載:自動ブレーキ、ACC、LKS、ハンドル操作の自動化など、複数の機能を統合制御して、例えば高速道路で同じ車線を走り続けるなど、限定した条件の自動運転を実現する段階。
(3)高度な自動化:人間の操作はほぼ不要で常時監視する必要はないが、安全の最終的な確認など、運転の責任はあくまで人間にある段階。機械が判断できないような状況に陥った場合には、機械から人間に運転の権限が移る。
(4)完全な自動化:人間の操作は不要で、安全の最終的な確認も機械に任せている段階。

IDS Conceptはレベル2と4のハイブリッドであるとのこと。

カメラの世界でも自動でキレイに撮れるスマホだけでなくマニュアル撮影可能な一眼レフカメラが残っている通り、自らクルマを運転するマニュアル操作の楽しみも必ず残るはずです。

クルマにおいてもAuto/Manualの2つの体験は今後しばらく併存するでしょう。

 

Nissan TEATORO

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続いて同じく日産のTEATRO。こちらは自動運転のコンセプトカーではありませんでしたが、自動運転と親和性の高い車内体験を提案しています。

2020年以降に運転免許を取得する “Share Natives(仲間とのつながりやシェアが日常的な次世代カスタマー)” に向けた提案だそうです。

真っ白なインテリアに、好きな映像を写して楽しむことができます。

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車内空間を「仲間との共有スペース」と捉えるのであれば、このような思い切った提案も十分に可能性があります。

 

Honda WANDER STAND CONCEPT

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お次はHondaのWANDER STAND CONCEPT。ASIMOの開発で培った自動運転技術を使って、立ったまま腰をかけて乗り自由に動き回れるクルマです。

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フロントガラスは散歩や観光に適した情報表示も可能。

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Hondaのコンセプト紹介のサイトに紹介されていますが、このクルマの発想の元になったのは人力車なのだそうです。

肩が触れ合う2人座り、広々とした窓、ファブリックのおもてなし感といった人力車の要素がデザインに落とし込まれているのが面白いですね。

 

車内のUXデザインが今後ますます面白くなる

上記3つのコンセプトカーは全く異なる体験価値を提供しています。「運転する」ことから開放されることで、「誰と」「いつ」「どこで」というコンテキストに応じた車内の過ごし方の可能性が広がります。UXデザインの対象としてますます面白くなりそうです。

メルセデスの自動運転リサーチカー F 015 Luxuary in Motion のムービーも関連して載せておきます。

 

2. パーソナルアシスタントの二極化

続いて感じたトレンドは、「パーソナルアシスタントの二極化」です。これはクルマに限らず人工知能系アシスタント全般に言えることですが、モーターショーを観て改めて感じたので記しておきます。

二極化とは、AppleのSiriに代表される Invisible(目に見えない)アシスタントと、Pepperなどの Visible(目に見える)アシスタントという2つの方向性です。

この観点は、以前コンセントさんのService Design Salonで聞いた話に影響を受けています。

参考:Service Design Salon Vol.9 「音声認識で考える『相棒』とのインタラクション」レポート | SERVICE DESIGN PARK

モーターショーでも、クルマのアシスタントとして Invisible/Visible の両極化が進んでいると感じました。

Invisible(目に見えない)アシスタント

Invisible Assistant はまさに、スマホのOSそのものがアシスタントとなる Apple CarPlayAndroid Autoです。

三菱自動車のブースにそれぞれが展示されていました。

Apple CarPlay

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Android Auto

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スマホとしての存在はあるものの、「アシスタント」個体としては目に見えません。

 

Visible(目に見える)アシスタント

一方、個人的に目を引いたのがこちらの Visible Assistant。何でもキャラクター化してしまうのは日本の文化でもあると思うので、キャラクター化されたパーソナルアシスタントが発展するのは当然かもしれません。

TOYOTA KIROBO MINI

トヨタは KIROBO MINI を出展していました。
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こちらはクルマをナビするようなロボットではないようですが、「コミュニケーションパートナー」として、人に寄り添い心動かす存在を目指しているとのことです。

FUJITSU TEN CarafL

以下は富士通テンのブースで見た、CarafL と呼ばれるアプリです。

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Wi-FiでECLIPSEカーナビと連携し、女性キャラクターとの音声対話で運転をサポートしてくれるようです。

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Nissan IDS Concept PD Mode

そしてこちらは、1. 自動運転による車内体験の多様化 でもご紹介した、日産IDS Conceptに出てくる顔。目だけではありますが、パイロットドライブ時のアシスタントの存在を見える化しています。

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このあたりの「パーソナルアシスタントをどこまで見える化するか」問題はデザイナーとして興味深く、取り組み甲斐があります。

 

3. クルマの外とのコミュニケーション

3番目のトレンドとして感じたのは、クルマの外の世界とのコミュニケーションです。

先にご紹介したNissan IDS Conceptでは、フロントのディスプレイに文字を伝えてドライバーの意思を伝えることができます。

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引用:日産:第44回 東京モーターショー 2015 | Nissan IDS Concept

またNissan TEATROも、インテリアだけでなくエクステリアに対しても文字や映像を映し出せるようです。

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メルセデスの F 015 Luxury in Motion では、文字ではなく横断歩道を映し出すことで、「おさきにどうぞ」の意思を伝えています。(テキストで伝えるよりスマートですね)

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引用:The Mercedes-Benz F 015 Luxury in Motion. – Mercedes-Benz

これらのように、クルマの外とのコミュニケーションの提案は新しいと感じました。こちらもまだまだインタラクションデザインの模索が必要でしょう。

また富士通/富士通テンはクルマとクルマ間のコミュニケーションも紹介していました。

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富士通のICT(情報通信技術)ソリューションとカーナビ技術を融合して、さまざまな運転支援を提案していくとのことです。まさにIoTにおけるUXデザイン。

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おわりに

以上、東京モーターショー2015を観て感じた、車を取り巻くUXデザインのトレンドを3つにまとめてみました。

実は僕は車も持っておらず、そこまで車に興味がなかったのですが、IAや自動運転といった技術が急速に進化しているいま、クルマを含めた「移動」の未来は考えるだけで非常に面白いです。今後も情報のキャッチアップと考察を続けていきます。

ただ、今回のモーターショーを観て改めて感じたは、まだまだ「乗る」という一時的UXにフォーカスしすぎているのでは?ということです。

今回この記事で紹介した展示は全展示のほんの一部であり、ほとんどの企業はモノと技術の展示に終始していました。

今後電気自動車が一般化して給電のあり方含めて家の一部となった場合など、考えるべきエクスペリエンスはまだまだたくさんあるはずです。ガラケーがiPhoneに淘汰されたように、最先端の技術を持つ日本のクルマもAppleやGoogleのクルマに淘汰されるかも、という一抹の不安を覚えました。

(もしかしたら上記のようなエクスペリエンスの提案はモーターショーに求めるのではなく、CEATECなど他の展示会に求める方が良いかもしれません。)

いずれにしても、これからの日本の自動車産業の更なる発展にはUXデザインが不可欠です。微力ながら応援しています。

Hiroki Hosaka

AIベンチャーのUXデザイナー/デザインマネージャー/CXO。メーカー→IoTベンチャー→外資系デザインコンサルを経て現職。このブログではデザインやUXに関するクリエイティブネタを発信しています。
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