「ワークショップの原点とファシリテーション」情報デザインフォーラム第13回プチレポート

(2014/05/08 更新) UXデザイン, サービスデザイン |

こんにちは、@h0saです。

2014年4月29日に開催された、第13回情報デザインフォーラム「ワークショップの原点とファシリテーション」に参加してきました。

UXデザイナーやサービスデザイナーにとって、ワークショップの計画・実行スキルやファシリテーションのスキルは欠かせません。

僕もそれらを実践していく身として、何かヒントが得られないかと聴きに行ってきました。(情報デザインフォーラム初参加です。)

以下、概要をプチレポートとしてまとめました。

 

「根っこに戻ってから考えるワークショップ」by 演出家 多木陽介氏

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はじめは演出家でアーティストの多木陽介氏の講演。ローマ在住ということでイタリア人デザイナー(アキッレ・カスティリオーニ、エンツォ・マーリ)の話に始まり、狂言の話で幕を閉じました。

話の趣旨は、「デザインをするときは、一度根っこに立ち返って考えよう」ということでした。

アキッレ・カスティリオーニは、”デザイナー”ではなく”プロジェッティスタ”だったとのこと。当時のイタリアでは「デザイン」が学問になるのが遅く、”プロジェッティスタ”と呼ばれる人たちは皆まず建築を学び、スプーンから都市までデザインしたそうです。

彼らは必ず今あるものを「疑う」ことから始めます。「これでいいのか?」「なぜこうなのか?」といった問いを投げかけ、ものづくりの根っこのとことまで下りていく。

根っこへ下りていく

具体的なフレームワークとして、「名詞の下の動詞に辿り着く」という方法を紹介されました。

例えば、サングラスをデザインするときは、「暗いレンズ」という名詞の下にある、「目に届く光の量を減らす」という動詞に辿り着く必要がある、ということです。

僕の解釈で言い換えると、デザイン対象物を「目的」と「手段」に分けるべし、ということです。サングラスをかける目的は「目に届く光の量を減らす」こと。それを実現する手段が暗いレンズ。

目的はそのままでも、手段を変えるだけで全く別のデザインになります。物を物として見るのではなく、その背後に隠れる提供価値を見極めることで、単なる色や形のデザイン変更ではなく、本質をついた抜本的なデザインをすることができます。

以上のことは現代のデザイナーなら当たり前に頭の中でやっていることだと思いますが、根っこの絵や名詞と動詞の話はフレームワークとして参考になりました。

 

「ワークショップのファシリテーション」by 7名の講師

多木氏のお話が15分ほど延長されたため、75分で7名の講演というかなりタイトなスケジュールに。皆様急ぎ足だったためメモも少ないですが、以下に載せておきます。

なお、こちらの7名の方々でワークショップとファシリテーションについての本を現在執筆中なのだそうです。

「情報デザインとワークショップ」by 小池星多氏(東京都市大学准教授)

IDEOとd.school、デザイン思考とワークショップについて紹介されました。

一番のメッセージとしては、「手法や環境よりも、ワークショップ参加者の一人ひとりの意識を高めることが大事」というものでした。

 

「ワークショップのドキュメンテーション」by 原田泰氏(公立はこだて未来大学教授)

ワークショップで用いられるドキュメンテーションのお話。

ドキュメンテーションの方法としては大きく以下の2つが挙げられます。

・出来事の可視化
 (ストーリーテリング、UXジャーニーマップ、フォトエッセイ)

・インフォグラフィックの活用
 (表/チャート/地図)

可視化と実践を繰り返すことで生産的なワークショップを行うことができるとのことです。

 

「ワークショップとインフォグラフィックス」by 木村博之氏(チューブグラフィックス代表)

はじめにご自身の仕事の紹介がありました。木村氏は現在、経産省と内閣府と一緒に仕事をされています。

経産省ではツタグラというインフォグラフィックス活用プロジェクトが2011年から行われていますが、現在はそれのWeb展開のお仕事をされているそうです。

内閣府では、対外というよりは対内的に、議事録をわかりやすく、オープンに、アクティブにするプロジェクトに関わられているそうです。ドキュメントをインフォグラフィックスでわかりやすく。

ワークショップにおいてもインフォグラフィックスの力は大いに役立つでしょう。

 

「ワークショップのこつ」by 浅野智氏

個人的にはこちらのセッションが一番参考になりました。

「できるようになるコスト」について、以下の説があるそうです。

・エリクソンの10年ルール
 高いレベルのスキル、知識を身に付けるためには、10年以上にわたる長期的な学習が必要

・10000時間の法則
 モーツァルトやビートルズなどのアーティストや、世界的に有名なスポーツ選手がその分野で活躍するための練習にかけた時間は10000時間が目安

このため、新しい概念をワークショップで学ぼうと思った時は、簡単にはできないとのこと。

ではどうしたらよいのか、ということで以下の図が紹介されました。(スライドの写真はぶれてしまったので、同等の図をWebより引用)

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引用:経験学習を取り入れた人材開発プログラムのリ・デザイン 経験学習のススメ 経験学習とは

具体的な体験をワークショップ内で行うのは難しいため、ワークショップでは省察をやるべきだそうです。

ポイントは以下のスライドの3点。

どうしたら分かるのか

まとめると、何かをできるようになるには

体系的な学び → 具体的な体験 → 体験の省察

が大事で、ワークショップでは省察に時間を割くべき、とのことでした。

[2014年5月8日追記]
浅野氏のブログで講演内容が記事にされていました。リンクを張っておきます。

参考:情報デザインフォーラム | 情報デザイン研究室

 

「ワークショップの計画」by 安藤昌也氏(千葉工業大学准教授)

ワークショップのデザインを授業にした事例を紹介されていました。

ワークショップの計画におけるポイントは以下3点。

・問いの切実性
・学びの狙いの絞り込み
・意欲に基づくセッションの組み立て

 

「企業におけるワークショップ」by 脇阪善則氏(楽天編成部ディレクター)

・なぜワークショップなのか?
 →ひとりではなくみんなで考えるプロセスを経たい

企業内で行うワークショップは
・ラーニング
・デザインプロジェクト
の2種類に分けられるとのこと。

ラーニングの目的は、手法を学ぶため。
デザインプロジェクトの目的は、成果を出すため。

企業内で行うには、特に後者の方が重要でしょう。(身に染みます。)

デザインプロジェクトでは、大きく分けると以下のようなステップがあります。

調べる → つくる → 確かめる

「調べる」では色々な方面のステークホルダーを巻き込み、「つくる」ではデザイナーや開発者がプロトタイプを作成し、「確かめる」ではレビューや評価を行います。

いずれのフェーズでもワークショップを効果的に開催することで、新しい気付きが得られたり、組織が活性化したり、業務が効率化したりと様々なメリットが見込めるでしょう。

 

「ワークショップのデザイン」by 山崎和彦氏(千葉工業大学教授)

最終セッションは、デザイン思考を行政や企業に導入することについて。

山崎氏のブログにも書かれている通り、山崎氏は経産省のデザイン政策に協力されたそうで、5年ぶりに「デザイン政策ハンドブック」が発行されたそうです。(間もなくpdf版が発行されるとのこと)

また、「デザイン行政研修」なるものも行われているそうで、少しずつ国にデザイン思考が取り入れられ始めているようです。

次に企業へのデザイン思考の導入については、2つの課題を挙げられていました。

課題1:デザインはスタイリングだけと考えられがち
課題2:デザイン思考はビジネスに役立たないと考えられがち

それぞれ、課題1はとにかくコミュニケーションで、課題2はサービスデザインを導入することで解決が見込めるとのことです。

企業がデザイン思考を導入

 

おわりに

以上、第13回情報デザインフォーラムのプチレポートでした。

初めての参加でしたが、参加人数は100人とのことでワークショップやファシリテーションへの意識の高さが伺えました。

ワークショップとファシリテーションについての本は今年中には出るそうなので、発売が楽しみです。

 
参考:他の参加者のブログ記事 [2014年5月8日追記]

第13回 情報デザインフォーラム 2014年04月29日 – 隣り合わせの灰と青春

情報デザインフォーラム(4/29)に参加しました。

第13回情報デザインフォーラムに参加しました。 – Culture Centered Design blog

 

参考書籍

ワークショップの企画から開催準備、アクティビティまで体系的に解説されています。

Hiroki Hosaka

AIベンチャーのUXデザイナー/デザインマネージャー/CXO。メーカー→IoTベンチャー→外資系デザインコンサルを経て現職。このブログではデザインやUXに関するクリエイティブネタを発信しています。
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