女性向けアプリを男性がヒットさせる秘訣とは?(SNAPEEE, papelook, DECOPICの事例から)

(2014/06/27 更新) UXデザイン | ,

先々週、CyberAgentが主催しているSHAKE 100というイベントに参加しました。テーマは「“女性向けヒットアプリ”を男性が生み出せた理由」。

会社でも「女性をターゲットに」と簡単に言うことがありますが、アプリ開発者がどのように女性向けにアプローチしたのかに興味があったので、お話を聴いてきました。

登壇者は3名、SNAPEEEの神尾氏、PAPELOOKの小澤氏、DECOPIC/ヤフーの松本氏。

以下より内容をご紹介します。

 

アプリについて

テーマについては興味があったのですが、僕が男ということもありアプリについては全然知らなかったので、ここで少しアプリの概要をご紹介します。

SNAPEEE

Snapeee -写真をかわいくアレンジ!フィルター、スタンプ、フレームで簡単に加工して共有できる女子カメラアプリ- App
カテゴリ: 写真/ビデオ
価格: 無料

このアプリは簡単に言えば、「プリクラSNS」。撮った写真をデコって専用SNSに共有できます。

日本よりも先に台湾で人気が爆発し、AppStoreでも1位を獲得。

今のWebサイトを見ると雑誌風でかなりオシャレ。イメージモデルに玉城ティナを起用するなど、憧れマーケティングにも力が入っています。以前はもっとポップなイメージだったそうですが、雑誌風オシャレイメージに変えてさらにダウンロード数が上がったそうです。

papelook

コラージュ・写真切り抜きデコはpapelook!無料の画像加工アプリ App
カテゴリ: 写真/ビデオ
価格: 無料

このアプリは簡単に言うと、「コラージュアプリ」。アイコンのモチーフにはさみを使っているとおり、手軽に写真を切り抜いてコラージュが作れます。

もともとはSNS機能がついており会員登録が必要だったそうですが、それらの機能をなくしたら一気にダウンロード数が上がったそうです。

DECOPIC

かわいい&おしゃれ!文字入れや写真加工はDECOPIC!無料の可愛いスタンプ・フレーム・フィルタでオシャレにデコれるカワイイカメラアプリ App
カテゴリ: 写真/ビデオ
価格: 無料

こちらは簡単に言うと、「とにかくデコれるカメラ」。SNAPEEEがデコれるカメラ&SNSなのに対し、DECOPICはカメラ機能に特化。

デコのクオリティにとにかくこだわったそうで、デザイナーがデコパーツ1パックを1ヶ月かけて作ったこともあるそうです。テンプレートが準備されているなど、使い勝手にも細かい配慮がされています。

 

女性向けサービスを作った背景

初めから「女性向け」を狙っていたわけではなかった

お三方とも、はじめから「女性向け」を狙っていたわけではないそうです。

SNAPEEEの神尾氏は、「3年後に流行りそうなプラットフォーム」を目指してブレストを行い、ホワイトスペースを探したとのこと。結果、「デコる写真共有SNS」がホワイトスペースではないかと仮説を立て、男3人で新宿にプリクラを撮りに行ったそうです。

はじめは女性ばかりが使うことは想定していなかったそうですが、アップされる写真を見て、女性の自分撮りが多いことがわかったとのこと。さらに、海外メディアに”KAWAII”と紹介され、カワイイ路線を強化していくことに決めたそうです。

papelookの小澤氏は、もともとはLOOKBOOKのようにクールで、雑誌風に写真をレイアウトするアプリを考えていたそうですが、市場の意見を聞きながら方向転換を行って今のコラージュアプリに落ち着いたそうです。

DECOPICの松本氏のはじめのアイデアは「写真を共有して落書きしていくアプリ」だったとのこと。Pathなどを参考にして広いターゲットを狙っていたそうですが、市場の意見を聞くなどして今のデコアプリに落ち着いたそうです。

 

地図ではなくコンパスを持つ

お三方の話に共通すると思ったのは、MITメディアラボ所長伊藤穰一氏が提唱している”Compasses over maps(地図ではなくコンパスを持て)“という考え方です。

つまり、綿密に練り上げられた計画(=地図)に沿ったのではなく、市場の変化を敏感に感じ取るという姿勢(=コンパス)を持ち、しなやかに方向性を変えていったということです。

リーン・スタートアップで言うところの「ピボット」を適切なタイミングで行い、製品仮説と顧客仮説をすり合わせることができた、と言い換えることもできます。

変化の速い今の時代、このような「変化にしなやかに対応する姿勢」が勝ち残る秘訣と言えます。

 

男性が女性向けサービスを作る時のポイント

これはDECOPIC松本氏の話が参考になりました。松本氏はヤフーのアプリ開発室室長 兼 アプリ開発会社コミュニティファクトリー代表取締役社長でもあり、豊富な経験に裏打ちされた内容でした。

徹底的にリサーチせよ

まず、自分自身がターゲットではないので徹底的なリサーチが必要。

英語で言うと自分はネイティブではないので、文法を学ぶがごとく女性誌を読み漁り、フォントや背景のドットの使い方など、女性の感性をひたすらインプットしたとのこと。

そして「カワイイ事例集」などをつくっていき、徐々にフレームワーク化されていく。その中の1つが以下の「カワイイマトリクス」。

Kawaii matrix

出典:なぜ、コミュニティファクトリーは女性向けアプリでヒットを連発できるのか?松本龍祐氏に聞く「3つの仕込み」 – エンジニアtype

このように「カワイイ」という曖昧な概念を図にすることで、共通認識を持って議論できるようになるそうです。

逆にこのプロセスなしで女性(=ネイティブ)がプロジェクトを進めてしまうとフレームワーク化できないので、むしろ男性がやった方が良いとのこと。プロジェクトは男女半々ぐらいで進めるのが良いとのことです。

なお、この「カワイイマトリクス」があれば、ペルソナをゼロから作る必要はなく、ディスカッションをしながらなんとなくターゲットユーザーが見えてくるそうです。

 

関連アプリを100個落とせ

そして、「関連アプリを100個以上落とす」こと。松本氏はヤフーで部下にこう言っているそうです。100個触ればなんとなくわかってくるとのこと。

100個というのはすごいですね。しかしそこまで徹底的にやらないと、群雄割拠のアプリ業界では生き残っていけないのでしょう。

さらに、当たり前ですがアプリを毎日使うこと。毎日使うことで見えてくる課題や改善点があるからです。

 

ユーザーインタビューよりも友達に聞け

また、仮説の検証については、ユーザーインタビューよりも友達に聞くほうが速い、とおっしゃっていました。声を聞くために飲み会を開くのも効果的だったそうです。

確かに、一般的なユーザーがターゲットなら、友人や家族に聞いてしまうのが一番速いですよね。

最近@fladdictさんが「オカンでテストせよ」的なエントリを書かれていましたが、それも同じような考え方ですね。

参考:スマホUI考(番外編) UIやUXを劇的に改善する、『ビッグオー駆動型開発』とは | fladdict

 

所感

「男性が女性向けサービスを作る時のポイント」については、女性向けだけでなく自分の知らない他の分野にも応用できると感じました。

知らない分野についてはとにかく徹底的にリサーチを行い、関連アプリを100個ダウンロードして市場を把握する。そこから得た知見をフレームワーク化していく。

ただし、このやり方は「すでに同様の市場が存在している」際に有効だと思いました。全く新しいイノベーティブなアイデアの場合、参考にすべき100個のアプリは存在しません。

インタビューについても、身近な人より「エクストリームユーザー」に聞くほうが思いがけないインサイトが得られます。(この辺りは過去のエントリで触れたのでよろしければご参照ください。)

参考:i.school創設者 田村大氏が語る「イノベーションの生態系とデザインの未来」

・・・と少し異なった視点を入れましたが、プロジェクトの内容次第で進め方を使い分ければ問題ないでしょう。

 
以上、「女性向けアプリ/サービスを男性がヒットさせる秘訣」についてご紹介しました。

Hiroki Hosaka

AIベンチャーのUXデザイナー/デザインマネージャー/CXO。メーカー→IoTベンチャー→外資系デザインコンサルを経て現職。このブログではデザインやUXに関するクリエイティブネタを発信しています。
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