Service Design Network Japan Conference 2014 参加メモ

(2020/11/08 更新) サービスデザイン |

こんにちは、@h0saです。

2014年9月14日に開催された、Service Design Network Japan Conference(サービスデザインネットワーク・ジャパン・カンファレンス)2014 に参加したのでメモを残しておきます。

■プログラム

招待講演:
ビルギット・マーガー/SDN代表。Koln International School of Design

発表:
竹本 佳嗣/コクヨファニチャー株式会社 プロジェクト企画室
田仲 薫/IDEO Tokyo Design Lead
宜保 陽子/Noom Japan Managing Director
山口 義宏/インサイトフォース株式会社 代表取締役

パネルディスカッション:
司会 岩佐浩徳/株式会社リクルートテクノロジーズ 執行役員

引用:Service Design Network Japan Conference 2014 | SDN Japan

昨年は都合がつかずに参加できなかったので、今年は楽しみにしていました。

参考:昨年のレポート記事→「政府の取組み」や「被災地支援」でも活用され始めたサービスデザイン (1/4):テクノロジーでビジネスを加速するための実践Webメディア EnterpriseZine (EZ)

今年のテーマは「行動と組織のトランスフォメーション」ということでしたが、そのテーマに留まることなく、様々な立場の方から「サービスデザイン」というキーワードを通して最新のプロジェクト事例や主張を聴くことができました。

今回は「写真はアップしないで」とのことでしたので、文章中心で聞いた内容を書き留めておきます。

招待講演:ビルギット・マーガー氏/SDN代表

はじめにSDN代表のBirgit Mager氏よりお話がありました。

テーマ:“Designing the Future, Designing for Services”

今年はサービス学会と同時開催で、このセッションのみ共通でした。「このようにアカデミアと実践家が交わることは、未来のサービスをデザインするために大切」とMagar氏はおっしゃっていました。

以下、講演内容の簡単なまとめです。

サービスデザインについて

・モノの時代の終焉 → 身の回りにあるものはすべて”サービス”。
・サービスは複雑なシステムである。
・”Wicked Problem(やっかいな問題)”に向き合うのがデザイナー。

・41%の事業会社がデザインは会社に不可欠なものと捉えており、デザイン志向の会社は株式市場で200%成功している。

・デザインはHolisticでCreativeなプロセスである。

・サービスデザインはユーザー目線でuseful, usable, desirableなサービスシステムを共創し、プロバイダーに価値と独自性をもたらす。

病院における「待ち時間」プロジェクト

・タスク:待ち時間を減らし、待つ体験を改善して患者とスタッフの満足度を上げること
・医者や患者とIn-depth meetingを行った
・観察、インタビュー、コンテクスチュアル・インクワイアリーを行い、全ての「待つ」プロセスを経験した

・使ったツール:
System Map
Stakeholder Map
Personas
Customer Journey
Touchpoint Analysis From Persona Perspective
Service Blueprint

・上記ツールを用いた後、Key Findingsを統合してビジュアル化

・それらをもとに創造フェーズへ:
Story Telling
– Enactments 実体験してみて改善を探る
– Design Jams アイデアジェネレーション
– Style Sheets コラージュ、ダイアグラム
– Prototypes ウェブから受付、待合室まで

サービスデザインの未来

・Service Design 8つの要素
– Interdisciplinary teams
– Frame and Reframe
– Zoom in and Zoom out
– Think in processes
– Deep Dive
– Co-create
– Visualize
– Prototype

英国Design Councilの報告(2011年12月)によると、サービスに関わるデザインプロジェクトへの1£の投資が2年以内に25£のリターンになった

・公共サービスのデザインプロジェクトでは、1£が26£
→サービスデザインに目を向ける価値がある。

デザイン業界に関わる身としてはまさにその通り、といった内容でした。数字で語れる成功事例がもっと増えれば、各分野でのサービスデザイン導入がより加速するでしょう。

発表:竹本佳嗣氏/コクヨファニチャー株式会社 プロジェクト企画室

続いて様々な事業領域からの発表がありました。まずはコクヨファニチャー竹本氏より。

テーマ:「渋谷から始まる新しいワークスタイル : 渋谷ヒカリエにあるクリエイティブラウンジMOVの事例」

渋谷ヒカリエ8階にある、クリエイティブラウンジMOVが紹介されました。

・用途:メンバー制ワークラウンジ
– コワーキングスペース
– 会議室
– サービスオフィス
– ショーケース

音楽・ファッションなど新しい文化を生み出してきた渋谷で、このワークラウンジを通して、企業、国籍を超えて多種多様な人が集まり、新しいムーブメントを生み出していくとのことでした。

発表:田仲薫氏/IDEO Tokyo Design Lead

続いてIDEO Tokyo 田仲氏より発表がありました。

テーマ:「ソーシャルテーマのためのデザイン」

IDEOについて

・IDEOは幅広いデザイン領域を幅広い人材で行っている。Food Scientistといった人もいる。

・Design Thinking → 人・技術・ビジネスの中で、人間を中心にアプローチ
・Creative Confidence → 創造力に対する自信、Design Thinkingを支える

・問題解決の方法、プロトタイピングを重視

事例:SF72

・IDEOがサンフランシスコのDepartment of Emergency Managementという行政機関とつくり出した、災害対策用のSNS

・災害対策への意識:
– 無視
– 一度はやったことある
– やろうと思っている
– 常にやっている
この4段階の前者3つの意識を変えるためのプロジェクト。

・既存のサービス、SNSを使って人とつながる

・サービスデザインとは言わずにデザインソリューションとしている

Sf72 main

Sf72

引用:SF72

これは東京でも十分に考えられる災害ソリューションだと思いました。

また、IDEOはもともとプロダクトやサービスにとどまらないデザイン領域に携わってきたため、「サービスデザイン」という言葉を使わない、というのも印象的でした。

事例:IDEO.org

・IDEOがパブリックセクターのコンサルティングをする為に創り出した財団(NPO)
・寄付制で成り立っている

・NGO, NPOなどから通常のコンサルフィーをもらうのは難しいため、財団を作った。これもプロトタイプと言える

・半分IDEOからフェローとして参画、半分はNPOから

・事例:Unileverのトイレプロジェクト”Clean Team
– ガーナで新しいトイレのプロダクト・サービス・ビジネスをデザイン

Cleanteam FINAL 16x9

引用:IDEO.org | Clean Team

課題を解決するために組織(NPO)そのものを作ってしまう、それすらもプロトタイプ、という視点がIDEOらしいですね。

事例:OpenIDEO

・Webにあるオープンディスカッションプラットフォーム
・スポンサー企業はそれを商品化までコミット

・プロセス:Research → Ideas → Applause → Refinement → Evaluation → Winning Ideas → Impact

・各国からのいろんな意見・アイデアが入ってくるので、IDEOがファシリテーターとして入っている

・基本の哲学:人を見て人に還元

OpenIDEO

引用:OpenIDEO – How it works

OpenIDEOはすごく良くできた仕組みだと思います。”Design Quontient”と呼ばれる独自の貢献ポイントを設定したりと、プラットフォームとしてのデザインが素晴らしいです。

発表:宜保陽子氏/Noom Japan Managing Director

次にNoom Japan 宜保氏より、Noomというサービスの紹介とそのデザイン過程のお話がありました。

テーマ:「ウェイトロス市場をDisruptするサービスデザイン」

Noomについて

・Noom:ウェイトロスに特化したモバイルアプリ

Noom - AI とコーチが健康管理、食事記録、歩数計連携

Noom – AI とコーチが健康管理、食事記録、歩数計連携
開発元:Noom, Inc.
無料
posted with アプリーチ

・ミッション:食事と運動によってより健康な生活を人々が送れるよう手助けする
・「食事ログ」と「コーチング」によりモチベーションをサポート

Noomをこの講演で初めて知りました。AppStoreの評価も良いようです。

サービス改善のプロセス

・毎週のUXテスト、ユーザーインタビュー(オフィスにて。アプリをアンインストールした人などにも話を聴く。)

・ユーザーリクエストを投票形式で見える化し、緊急性・重要性の高いものから改善

・年間52回(週1回)リリース →Google Playで21ヶ月連続売上1位を記録

アプリをアンインストールした人にインタビューする、というのは面白いですね。週1でアップデートするというのもものすごいスピードです。

B2C → B2B へ

・米国の医療業界傾向として、患者とのエンゲージメントを評価する傾向が強くなってきた
→B2B向けヘルスケアプロダクトへ展開

・Noom Prevent 糖尿病予防プログラム
・Noom Monitor 摂食障害社向けプログラム
・Noom Coach Enterprise 企業向けウェルネスプログラム

まだまだ可能性がありそうなサービスだと感じました。

発表:山口義宏氏/インサイトフォース株式会社 代表取締役

発表の最後は、インサイトフォース山口氏のお話。

テーマ:「顧客体験のプラットフォーム」と捉え直すブランド戦略

個人的にはブランドとUXの関係について日々考えていたので、とても参考になる内容でした。

ブランドとは?

・ブランドとは頭の中で「記号」と「価値」が結びついた総体

例)
– スタバのシンボル → “コーヒー”
– ナイキのシンボル → “スポーツ”
– アップルのシンボル → “カッコイイ”

BrandIdentity2

・ブランドが創られる法則:”魅力的一貫性のある顧客体験の蓄積“で創られる

・ブランド認知力の低い企業は大抵、魅力がないか一貫性(顧客接点の一貫性、時間軸の一貫性)がない

・企業が直接コントロールできるもの:
– 商品・サービス
– 広告キャンペーン
– 販売店
– 接客スタッフ
– 自社ウェブサイト

・企業が直接コントロールできないもの:
– 口コミ
– マスメディア
– 知人の評判

・「どう思われたいか(ブランド知覚価値)」を決めて、それに応じて戦略を立てていく=ブランドマネジメント

・ダイソンの事例:コアバリューを刷り込む
– リスク意識を刺激するコミュニケーション(弱い恐怖*はコンバージョンが高い)
– 日本企業は弱い恐怖を創りだすのが苦手

*弱い恐怖=「掃除機は吸引力が低下するとゴミを取り残すことがある」

ブランド戦略とは?

・ブランド戦略とは、意図的に生活者の頭のなかで識別記号と知覚価値が結びつくように、すべての顧客接点の品質と一貫性を体系的に管理することで、市場競争力を高めることを目指すもの

・一貫性の例:
– 商品・・・BMWの”駆け抜ける歓び”を感じる乗り味
– サービス・・・スタバのパーソナライズされた親しみを感じる接客
– プロモーション・・・ソフトバンクの白いお父さん
– デザイン・・・TSUBAKIの艶やかな真紅のパッケージ

人は知覚認識でものを選んでいる →企業は「人は優れた事実でものを選ぶ」と誤解しがち

・強いブランドのビジネスメリット:利益の出る事業成長の基盤になる
– 競合に埋もれずに選ばれる
– 有利な取引条件(価格)
– 取引のリピート率向上

ブランド戦略におけるUXの重要性

・iPhoneの事例:日本市場において「スマホ=iPhone」94%
・iPhoneの強さは顧客体験全体の良さ
– 検討〜購入 → 開封〜設定 → 使用 → 情報共有 → サポート まで

・「モノ単体の良さ」は価値の中の構成要素の一要素、すべての顧客体験の累積がトータルの価値となる

・顧客体験の誤解:UXはITだけの話ではない
– プッチンプリン:プッチンするシズル感
– いろはす:ひねって捨てる=エコ
→IoTの流れもあり、非IT業界でもUXの競争追求が激しくなっていく

この辺りの話はUXタイムスパンの累積的UXに直結しており、実感を持って聴いていました。

経営から見たブランド戦略とサービスデザインアプローチの効用

・事業戦略←→ブランド戦略←→マーケティング4P施策
– どのような象徴的顧客に?
– どのような知覚価値を?
– どのような識別記号で?
– どのような顧客体験を?

・ブランド戦略では事業戦略での失敗は取り戻せない
– 例)AQUOS(国内のブランド戦略は成功したが、多額すぎる液晶工場投資で失敗した)

・強い経営トップと技術優位が期待しにくい経営環境では、ブランド戦略の形式知化が有効(カリスマ牽引型、技術牽引型ではなく、戦略牽引型のアプローチ)

・ブランド戦略を作り、組織で共有・実行するには、部門横断でのサービスデザインアプローチでの検討が有効(各担当者が腹落ちして一貫性のある施策実行につながる)

・「理想的な顧客体験」を定義してからモノ・サービスを考える手順が大切

UXをデザインすることは、ブランド戦略の一部分でもあることを再確認しました。

パネルディスカッション

司会:岩佐浩徳氏/株式会社リクルートテクノロジーズ 執行役員/SDN Japan 共同代表

最後にパネルディスカッションと質疑応答がありました。気になった所だけピックアップします。

マネタイズについて

IDEO田仲氏:
・IDEOはコンサルなので、期間とゴールは決まっている。
・もし売上を提示されたら、ビジネスデザイナーが算出する。
・事業性が不確実なアイデアもある。そこをプロトタイプをクライアントに見せて対応。内装のA/Bテストなど。新事業ならタネのプロトタイピングをやる。
・スタートアップなら、ある程度成長したらストックオプションでいただくなど。

Insightforce山口氏:
・まずマネタイズありき。既存市場を広げる方法を模索して次にイノベーションを検討する。
・新しいことをやるにはどれだけ組織を遠ざけるか、ブランドを遠ざけるかを考える。
・イノベーションをやるのは大変。胆力が必要。
・まずは顧客体験を考え、そこから技術、パートナーを探す。

リクルートテクノロジーズ岩佐氏:
・結構悩んでいる。既存事業の慣性から抜け出せない。

Noom宜保氏:
・プロダクトへのリクエストに耳を傾け、カスタマーサポートを大事にしている。
・NYにはDigital Health Acceleratorというスタートアップと大企業(保険会社)のマッチング機関がある。大企業からアドバイスをもらえたりする。

アイデアを一般人から募ることについて

IDEO田仲氏:
・Bank of AmericaのKeep the changeというサービスをローンチした時、「アイデアをパクった!」と訴えられた。無事だったが。アイデアは誰でも持っている。
・Open IDEOではアイデアをそのままやることはないが、皆から意見を集めることで視野が広がる。

リクルートテクノロジーズ岩佐氏:
・企業の場合、「俺達の方が知っている、俺達が考えてやっている」という上から目線の意識があるのでは?

→プロジェクトの初めの方からクライアント(企業)と接し、普通のことをやってもらったりする(参与観察)。それでリフレームを起こす。(田仲氏)

→グループインタビューに役員を連れて行く。直に触れてもらうことでリフレーミングする。(山口氏)

→リクルートでは、インタビューに役員を連れて行ったら「役者雇ってるだろ!」と言われたりしたことがある。(岩佐氏)

→キーマンの視界を合わせることが重要。マーケティングの問題は組織の問題が半分。(山口氏)

プロジェクトを受けないケース・理由について

IDEO田仲氏:
・費用と期間、プロセスが担保できない場合。
・問題が複雑であればあるほどデザインが活躍するのでNoと言うことはない。死、宗教とか。

Insightforce山口氏:
・自社にCapabilityがないときは他社を勧めることもある。お金とそこで得られることが自社のためになるか、が選定基準。

おわりに

以上、SDN Japan Conference 2014のメモでした。「サービスデザイン」に関係する色々なお話を聴くことができ、視野が広がりました。

今後モノとシステム、サービスがますます融合していく中、サービスデザインの知見はどんな分野にも必要になっていくでしょう。来年はどんなトピックが話されるのか、楽しみです。

全然関係ないですが、本記事で100件目の投稿となりました。今後とも UX INSPIRATION! をよろしくお願いいたします。

参考文献

冒頭のMager氏もp.31に出てきます。

THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics – Tools – Casesー領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計 [ マーク・スティックドーン ]

Creative ConfidenceやDesign Thinkingについて書かれている、IDEO創業者ケリー兄弟渾身の良書。

クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法 [ トム・ケリー ]

インサイトフォース山口氏の著作。

プラットフォーム ブランディング [ 川上 慎市郎, 山口 義宏 ]

Hiroki Hosaka

AIベンチャーのUXデザイナー/デザインマネージャー/CXO。メーカー→IoTベンチャー→外資系デザインコンサルを経て現職。このブログではデザインやUXに関するクリエイティブネタを発信しています。
詳細プロフィール