サービスデザイン方法論2014 第4回:ユーザーインタビューと要求抽出 レポート

こんにちは、@h0saです。

HCD-Net主催の「2014年度サービスデザイン方法論 第4回:ユーザーインタビューと要求抽出」に参加しました。講師はHCD-Net理事の早川氏です。

2014年度サービスデザイン方法論:
第1回 エスノグラフィ 安藤昌也氏(HCD-Net理事・千葉工大)
第2回 カスタマージャーニーマップ 長谷川敦士氏(HCD-Net理事・コンセント)・坂田一倫氏(コンセント)
第3回 発想法 山崎和彦氏(HCD-Net理事・千葉工大)
第4回 ユーザーインタビューと要求抽出 早川誠二氏(HCD-Net理事)【この記事】
第5回 構造化シナリオ法 早川誠二氏(HCD-Net理事)・高橋克実氏(ホロンクリエイト)
第6回 ペーパープロトタイピング 浅野智氏(HCD-Net理事)・坂本貴史氏(ネットイヤーグループ)

最近仕事でインタビューをかなりやったので、今回はその省察フェーズとして参加することができました。

以下、振り返りとして講義とワークショップの内容をまとめました。

講義:ユーザーインタビューと要求抽出

インタビューの位置づけ

まずはインタビューの位置づけについて。大阪ガス行動観察研究所のWebサイトに掲載されている図が引用されました。

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引用:なぜ「観察」なのか? | 行動観察とは | 大阪ガス行動観察研究所

インタビューは「仮説抽出」と「顕在化した問題点」を引き出すのに向いているということですね。質問の仕方(なぜ?と深く掘り下げるなど)によっては、潜在的な問題点まで引き出せる、比較的取り組みやすいリサーチ手法です。

インタビューの種類と特徴

浅野先生のブログにインタビューの手法がまとめられているので引用させていただきます。

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引用:半構造化インタビューと非構造化インタビュー | 情報デザイン研究室

■構造化インタビュー:よく行われる一問一答式の質問票(アンケート)調査に近い手法。

■半構造化インタビュー:事前に大まかな質問事項を決めておき、回答者の答えによってさらに詳細にたずねて行く簡易な質的調査法。長時間のインタビューが行えない場合などに効果的。

■非構造化インタビュー:質問内容を特に定めず、回答者が意識していない考えを引き出すのが目的。会場で行うデプス(深層)インタビューや、現場で実際に対象物を使用してもらいながら行うエスノグラフィックインタビューがある。

■グループインタビュー:6~8名程度のグループに対して、質問票に記入してもらいながら、会話から得られる意見も収集する技法。パーソナルインタビュー(個人)よりも、集団としての消費者行動などの把握に適している。

■フォーカスグループインタビュー:一つのテーマに対して、6~8名程度のグループで討論してもらう質的調査法。グループであることから、安心感や連鎖反応が起こりやすく、インタビュアーから直接質問されないため自発的なコメントを取りやすい。

今回は、半構造化インタビューのワークショップを行いました。

半構造化インタビューの特徴

・直接性と柔軟性を活かして、新しい「気づき」をつかむこと

– 直接性:リアリティのある強い実感を得て、ユーザーの要望や不満に共感できる

– 柔軟性:意外な情報を得やすく、ユーザーの言葉から自分の視野を広げられる

インタビュー調査の進め方

1. 調査の計画

2. 調査の準備

3. 調査の実施

4. 結果の整理

1. 調査の計画

・目的を明確化する

→調査を計画する上での一番のポイントです。

目的の定まらない調査からは、不明確な結論しか得られません。目的に応じて、手法を選ぶことが大切です。

「何がわかっているか」→「課題は何か」→「何を知ればよいか」
を明らかにすることで、
「どうやるか(=手法)」
の選択を適切に行うことができます。

場合によっては、インタビューではなくアンケートで確認を取った方がよいかもしれませんし、観察と組み合わせることでより潜在欲求を引き出せるかもしれません。

また、目的が具体的になればなるほど、より適切な質問が可能になり、分析の効率も高まります。

・事前にインタビュー結果の活用方法を考える

– 上位下位分析法を用いて要求抽出(本ワークショップ)
ペルソナを作成
メンタルモデルを作成

インタビュー結果の活用の仕方によって、メモの取り方も変わってきたりするので、関係者と話し合って事前に明確にしておくのがよいでしょう。

2. 調査の準備

・インタビュイーのリクルート
→友達ルートが現実的で速いようです。

・インタビューシナリオの作成
→半構造化インタビューでは、回答者の答えによって詳細を掘り下げられる柔軟性がありますが、大まかな質問内容は事前に決めておくべきです。従って、理想的なインタビューの流れをイメージして「インタビューシナリオ」を準備する必要があります。

・実施の事前打ち合わせ
→リハーサルを行い、時間配分や質問の抜け漏れを確認することも大事です。

3. 調査の実施

・「話をきく技術」を意識する
→インタビューのポイントです。後述します。

・できるだけ早く振り返る
→振り返ることで理解の矛盾を解消します。後から他の人に内容を説明する際にも有効です。

4. 結果の整理

・同行していないメンバーへの伝達、共有
→Face to faceで共有し、その場で質問を受け付けるのが有効とのことです。

・活用方法に応じた整理
→あらかじめ計画していた活用方法に応じて、KJ法などを使って整理していきます。

インタビューの構成

・導入(自己紹介と趣旨の説明、データの取り扱い説明、時間の確認など)5分

・本体(狙った話題に関して情報を得る)

・クロージング(聞き落としのチェック、確認の質問、お礼など)5-10分

→内容にもよりますが、30〜60分程度で効率的に行うのがよいでしょう。

話をきく技術・・・インタビューのポイント

早川氏いわく、「3人の自分」を頭の中で同時に働かせるのがポイントとのことです。

「3人の自分」についての詳細は以下。インタビューに臨む際のチェックリストとして使えそうです。

心理:相手に興味を持ち、寄り添う自分
論理:内容を確実に理解し、整理する自分
管理:調査目的を意識し、コントロールする自分

心理:相手に興味を持ち、寄り添う自分

・信頼関係を構築する
– 積極的関心(前傾姿勢、誠実なメモ、笑顔、共感)
– 共感(相づち、合いの手、繰り返し)
→PCでメモを取る場合は、はじめに断りを入れるのが良いでしょう。

リラックスさせる
– 相手のリズム、ペースに合わせる
– 質問しすぎない

適度に自分の経験や意見を話す
– 話題を含ませる

インタビューのコツとしてよく言われるのが、「弟子入り」の姿勢です。気難しい師匠に弟子入りして、教えを請うように話を聞くイメージをすれば、自然と上記のような姿勢でインタビューできるでしょう。

このあたりは以下の記事でまとめています。

参考:コンテクスチュアル・インクワイアリーのコツとツボを学ぶ ー 樽本徹也氏のインタビュー入門より | UX INSPIRATION!

論理:内容を確実に理解し、整理する自分

・網羅性、一貫性、区別をチェックする
– 図やリストの形式でメモを取る
– 肉付け、裏付けが必要なところは質問で補う

・不確実な部分を明らかにする
– 意図を丁寧に説明する
– わかったつもりにならない、知ったかぶりをしない
– 自分の言葉に置き換え、確認を求める(論理的創造力)「〜ということなんですよね」

・誘導を避ける
– 相手の曖昧な言葉を勝手に解釈しない
– 一方的に情報を与え、回答者を教育しない

・話を明確にする
– 聞いた内容を要約して返す
– オープンな質問とクローズドな質問を使い分ける
– 本人の体験的事実か、伝聞・憶測なのかを明らかにする

→ここで不確実な部分を明らかにしておかないと、後の分析があいまいなものとなります。なるべくインタビュー中につぶしておきたいところです。

もし聞き逃してしまったら、身近な人であればすぐ聞き直せますが、調査会社などにリクルーティングしてもらった場合などはすぐに聞き直すことができません。そのような理由でリクルーティングはなるべく身近な人で行えるのが理想です。

・言葉以外の情報を手掛かりにする
– ノンバーバルな情報も記録しておく

→話すスピードが速くなったり、声が大きくなったり、逆に言葉がはっきりしなかったり、視線をそらしたり、といったノンバーバルな情報も記録しておくとよいそうです。エピソード情報として他者に伝えるときにも効果的とのこと。

管理:調査目的を意識し、コントロールする自分

・事前に準備した話題へ相手を導く
– インタビューシナリオを意識する
– タイミングを伺い、必要な話題を切り出す

・時間配分を考える
– 相手の気分を損なわないように話を切り上げて次の話題へ移る

・相手の特性に合わせる
– 心理・論理のバランスを調整する

→無口な人であれば心理面に注力してまず話してくれる雰囲気を整えたり、逆に多弁な人であれば論理に注力して話のポイントを整理しながら話を先に進めたりと、フレキシブルな対応が大切です。

インタビューのポイントまとめ

・目的を明らかにする
・適切な人に聞く
・インタビューシナリオを作る
・相手との信頼関係を構築する
・「心理」「論理」「管理」を連携させる
・素早くまとめる(振り返る)

あとは場数を踏むしかないとのことです。

ワークショップ

ワークショップは、以下の4つを行いました。

1. 「インタビューにおいて大切なポイントは何か」を話し合う
2. インタビューシナリオに基づく相互インタビュー
3. リードユーザーインタビュー
4. 「上位下位関係分析」を用いてインタビューデータを分析する

1. 「インタビューにおいて大切なポイントは何か」を話し合う

今回(第4回)から新しいチーム編成になったため、自己紹介も兼ねて、講義の途中で行われました。

僕のチームで出た意見は以下です。

・話しやすい雰囲気を作ること(リラックスできる場所を選ぶなど)
・相手に興味を持ち、話に関心を持って聞くこと
・意見を誘導しないこと
・判断を保留し、掘り下げること
・インタビュー内容をすぐに共有すること

「準備」「実施」「整理」各段階にまたがる幅広い意見が出ました。

2. インタビューシナリオに基づく相互インタビュー

【プロジェクトの目標】
新しい働き方を実現するための、これまでにない製品・サービスを提案する

【インタビューのテーマ】
「働く」

上記設定で、以下のアクティビティを行いました。

インタビューシナリオを作る(5分)

プロジェクトの目標を意識して、簡単なインタビューシナリオを作成しました。

僕は「いつどこで仕事をするのか」に興味があったので、その辺りを質問リスト化し、時間配分を大まかに書き込みました。

相互インタビューする(15分)

インタビュアー、インタビュイー、記録者、観察者に分かれて持ち回りでインタビューを行いました。

個人的な反省としてはインタビューシナリオの作りが甘く、調査目的をあまり明確化せずに話を聞いてしまい、後の上位下位関係分析で困ることになりました。

フィードバック(3分)

観察者の方からフィードバックをいただきました。「いつどこで仕事をするのか」というポイントに絞っていたのは伝わっていたようでした。

3. リードユーザーインタビュー

続いて、先のインタビュー内容を聞いて、「ユニーク/先進的な働き方をしている」人をグループの中から選んでリードユーザーインタビューを行いました。

ただ、リードユーザーインタビューを行ったものの、後の上位下位関係分析ではグループ全員分のインタビューデータを分析するなど、リードユーザーをうまく活かせないWS内容だったのは残念でした。

なお、エクストリームユーザー(リードユーザーとほぼ同義)の「探し方」について、過去に記事にしましたので掲載しておきます。

参考:エクストリームユーザーの探し方・アプローチ方法についてのヒント | UX INSPIRATION!

4. 「上位下位関係分析」を用いてインタビューデータを分析する

今回、ここが一番知りたかった所でした。以下が僕たちのグループのアウトプットです。

上位下位関係分析結果

上位下位関係分析とは

インタビューから抽出された消費者ニーズを、階層的なニーズに分類し、そのつながりから本質的なニーズを発見する方法。

階層的なニーズ:
・Beニーズ(〜になりたい)
・Doニーズ(〜したい)
・Haveニーズ(〜がほしい)

上位下位関係分析のやり方

関連情報を引用しながら、上位下位関係分析のやり方を3ステップで説明します。

1. インタビューデータからユーザーの事象をカード化する

→カード化する際のポイントが浅野先生のブログ記事で紹介されています。

カードは「単語」で書かず、読み手がその場の情景が目に浮かぶように動詞を使って書く
これが上手く書けないのは、インタビューが足りないからだ。

引用:UX神戸#06 ペルソナ/シナリオ法 インタビューと上位下位関係分析法 | 情報デザイン研究室

2. カード化された事象を類似する行為目標(Doニーズ)にまとめる

→こちらもポイントを浅野先生のブログ記事を引用させていただきます。

最下段に外的な事象を貼り終わったら、行為目標が似ている同士をグループ化して行く。
ここでのポイントは、似ているという意味の解釈の問題である。
私たちは日常的に同じカテゴリーのものをグループと思い込む習慣がある。
カードの記述が抽象化されていると間違ったカテゴライズをしてしまう可能性が大きい。
むしろカードを動詞で書いて、行動の奥に潜むユーザーの意図を汲む分析を心がけたい。

引用:UX京都2013#05 半構造化インタビューと上位下位関係分析法  | 情報デザイン研究室

3. 行為目標をさらに上位のニーズ(Beニーズ)にまとめる

→『エクスペリエンス・ビジョン』には以下のようなポイントが書かれています。

最上位のニーズは得てして「幸せになりたい」といったものになりがちだが、そこまで上位化する必要はない。階層も3段階程度が原則ではあるが、それ以上でも構わない。また、本質的ニーズとして採用する要求も1つである必要はない。

引用:『エクスペリエンス・ビジョン: ユーザーを見つめてうれしい体験を企画するビジョン提案型デザイン手法』p.44-45

反省点

僕たちのグループの上位下位関係分析は、「予定調和になってしまった」との講評をいただきました。理由は以下であると考えます。

・インタビューの目的が不明確な部分があった

・インタビューデータをカード化する際に文脈の情報が足りなかった

・潜在的な意図とは関係ない当たり前のカテゴライズをしてしまった

ワークショップを行っている最中は「まとまった感」があったのですが、冷静に見返すと気付きが得られるような「本質的要求」は抽出されていませんでした。

次回、上位下位関係分析を行うときは、上記の点を気を付けます。

所感

インタビューと上位下位関係分析のWSを通して、気付きがとても多かったです。

特に、上位下位関係分析があまりうまくいかなかったおかげで、何が問題だったのかをインタビューの設計まで遡って考えることができたのは、「失敗から得た学び」と言えます。

また、懇親会で講師の早川氏に突っ込んだ質問もさせていただくことができ(本記事にも頂戴した回答を盛り込んでいます)、大変勉強になりました。次回も楽しみです。

参考文献

聞く力 心をひらく35のヒント(文春新書) [ 阿川 佐和子 ]

「心理:相手に興味を持ち、寄り添う自分」の説明のところで紹介されていました。著者のインタビューへの姿勢は参考になりそうです。

ユーザビリティエンジニアリング第2版 ユーザエクスペリエンスのための調査、設計、評価手法 [ 樽本徹也 ]

こちらはHCD手法について幅広く書かれていますが、インタビューについても詳しく書かれており、かなり参考になります。

Hiroki Hosaka

AIベンチャーのUXデザイナー/デザインマネージャー/CXO。メーカー→IoTベンチャー→外資系デザインコンサルを経て現職。このブログではデザインやUXに関するクリエイティブネタを発信しています。
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