MIT伊藤穰一氏×NISSAN中村史郎氏が語る「未来の移動」とは?@東京モーターショー2013

(2014/09/07 更新) デザイン | , , ,

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前回の記事ではMITメディアラボ所長 伊藤穣一氏の単独講演をレポートしましたが、今回の記事では日産の著名デザイナー中村史郎氏と伊藤穰一氏のパネルトークの内容をご紹介します。

インターネットに関する膨大な知識と経験に裏打ちされた伊藤氏のコメントは大変示唆に富んでおり、車業界、ひいては日本の製造業界が生き残る上でのヒントになったのではないでしょうか。

 

第二部:パネルトーク「未来社会と未来の移動」by 中村史郎 × 伊藤穰一

車社会について

「必要な移動」から「好奇心を満たす移動」へ

中村史郎氏(以下 中村):2025年には60%の人々が都市に住む。年間7000万人が都市へ移住している。統計では、「クルマは要らない”38%”、クルマは要る”62%”」。「車好き”20%”、仕事上必要”80%”」。ストレスをどう取り払っていくか?が課題。維持費がかかる、事故を起こすといった問題にどう対処していくか。

伊藤穣一氏(以下 伊藤):私は運転は好きだがストレスのある運転は好きじゃない。渋滞とか、打ち合わせのために駐車場に止めるとかは好きじゃない。

中村:海外では車を借りて町を観光することはよくあるが、日本に来る観光客が運転することはほとんどない。2020年オリンピックの時は、パーソナルモビリティ社会になっていてほしい。

移動は「必要な移動」ではなく「楽しみ、好奇心を満たす移動」にシフトしていくべき。カーシェアリングについても、ZipCarなどのサービスが日本でも流行ってほしい。

伊藤:アメリカではレンタカー会社とメーカーがつながっている。

中村:日本でも、横浜で「チョイモビ」というサービスが始まっている。乗り捨て可能なワンウェイ型カーシェアリング。日産のNew Mobility Conceptを使っている。

チョイモビ

 

クルマのコミュニケーションの未来

中村: 「クルマとクルマのコミュニケーション」「クルマとドライバーのコミュニケーション」そして「クルマと歩行者のコミュニケーション」も考えていかなければならない。

伊藤:オリンピックの頃には、心拍数などの情報を得る(= Quantified Self)ことが当たり前になっているはず。MITでは、運転中の脳波を地図にマッピングする研究が行われている。どこがストレスが多いかがわかり、自動運転の手がかりになる。

 

デザインについて

変わっていくインテリアデザイン

中村:車のデザインは今後、エクステリアデザインはさほど変わらないが、インテリアデザインは変わっていくだろう。モニター周辺が一番デザインのプライオリティが高い。どう直感的に使いやすくするかに取り組んでいる。物理的なスイッチとタッチスクリーンをどう使い分けるかが課題。BI(=Before Internet)の人は物理スイッチを好み、AI(=After Internet)の人はタッチスクリーンを好む傾向がある。

伊藤:日本はオートマ車が普及しているが、海外は依然としてマニュアル車が多い。物理スイッチとタッチスクリーンの関係に似ている。どこまで自分のコントロール範囲を残すか。

中村:地域によって、オートマ、マニュアル志向は異なる。地域性が残っている。ヨーロッパはやっぱりマニュアル。シフトレバーがなくなるとデザイン性がかなり高くなるのだが。

インテリアについては、自分の生活を持ち込んでいるのでさらに地域性が出る。カップホルダーはアメリカでは必須。一等地に8個ないとダメ。ヨーロッパではそのような要望は全くなかった。

 

共創(Co-Creation)によるデザイン

Co Creation

中村:AIの影響で実は、エクステリアに影響を及ぼしている。インターネットで世界がつながったことで、グローバルデザイン化が進んだ。次のステップとして、日産では”Co-Creation(共創)“でクルマを作ってみた。若いクリエイターたちに、商品開発に参加してもらった。

IDX Concept

Nissan IDx Concept

IDxについての詳しい情報はこちら

伊藤:日本のアニメ・文化好きはどこの国にもいる。ネットを介してコミュニティーができている。日産の車好きコミュニティと連携したら面白い

中村さん:まさにやりたい。ただ自動車業界はAgilityが足りないが。Co-creationをやるとデザイナーの職がなくなるのでは?と言われるが、間違いなく良いものはできる。日産らしくなる仕組みを作っておけばよい。

伊藤:MITでは共創を”Co-Design”と呼んでいるが、Co-Creation/Co-Designにはプラットフォームが必要。ブランドがプラットフォームになる

中村:車業界は1000万円ではものが作れない。が、変わっていかなければならない。車業界に提言はありますか?例えばオープンソースとか。

伊藤:プラットフォームビジネスとコンテンツビジネスは、経営の発想が異なる。100年に1回の投資と、毎日商品を出している会社と。自動車業界も、アジャイル開発のできる素早い会社などを巻き込んでいってはどうか。

中村:業界としてはオープンソース化には抵抗があるが、確かに外のものを引っ張ってこなければならないと思う。

伊藤:差別化するところと、共通化(=オープン化)するところ、レイヤーを分けて考えるべき。Googleはそのレイヤーがわかっている。(筆者註:GoogleだとAndroidがオープンで、検索技術といったがコア技術が差別化要因と解釈。)

中村:なるほど。

伊藤:最近面白い記事を読んだ。Amazonのコメントからニーズを読み取り、それを外注して作ってブランド化してビジネスにしてしまう会社が現れたという内容。そういうスキマ産業がきている。車業界も、そういった「間」を狙ってくるところが出てくるかもしれない。

 

所感

一時間のパネルトークでしたが、正直時間が足りないように思いました。まだまだ「これから面白い話がもっと聞けそう」といったところで次の話題に移ってしまったり。

それはさておき、車業界ひいては日本の製造業界が生き残るヒントを聞けたのは収穫でした。ハードウェアのオープンソース化は間違いなく避けられないので、差別化するところとオープン化するところのレイヤーを分ける」という考えはすぐにでも実行すべきだと感じました。

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Hiroki Hosaka

AIベンチャーのUXデザイナー/デザインマネージャー/CXO。メーカー→IoTベンチャー→外資系デザインコンサルを経て現職。このブログではデザインやUXに関するクリエイティブネタを発信しています。
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