新しい体験をデザインするために、デザイナーはデザイン対象分野の素人であるべきか、専門家であるべきか

(2017/03/21 更新) デザイン, UXデザイン | ,

こんにちは、@h0saです。

先月11月から、新しい環境で仕事をしています。

6年半勤めたメーカー企業を離れ、アスリート向けのプロダクト・サービスを開発するベンチャー企業に転職しました。

UXデザイナーとして幅広くデバイス・アプリ・Webサービスに関わることができる環境で、今まで培ってきたスキルを存分に生かせる場にやりがいを感じています。(まだまだ人数が少なく、やるべきことがたくさんあります。)

新しい環境に移ってみて、改めて考えていることがあります。それは、表題の通り「デザイナーはデザイン対象分野の素人であるべきか、専門家であるべきか」。

今僕が取り組んでいるサービスは、ある特定の競技に重きを置いており、僕はそれに対しては完全に素人です。周囲には専門家が多く、専門的な会話にキャッチアップするために入社して早々専門書や雑誌を複数冊読んだりしました。

前職でも専門性の高い分野のUIデザインに携わっており、専門家に囲まれる状況は分野は違えど変わっていません。

そんな中、「デザイナーはデザイン対象の素人であるべきか専門家であるべきか」を必然的に考えるようになりました。

 
・・・前置きが長くなりましたが、以下、

・受諾業務ではなく自社開発業務(インハウスデザイナー)での立場
・6年半特定の分野のデザインに携わってきた経験
・全く新しい分野に素人として飛び込んだ経験

から、

・デザイナーはデザイン対象分野の素人であるべきか専門家であるべきか
・素人目線と専門家目線
・個人の視点とチームの視点

について考察した結果をまとまめした。

 

デザイナーはデザイン対象分野の素人であるべきか専門家であるべきか?

「完全なる素人または専門家」ではいけない

まずいきなり結論です。新しい体験をデザインするためには、デザイナーはデザイン対象分野の「完全なる素人または専門家」ではいけないと考えます。

「完全なる」とつけたのは、どちらかの視点に偏ってはダメ、ということを言いたいからです。新しい体験をデザインするには、「素人目線」「専門家目線」どちらも必要です。

すなわち、デザイナーは「素人目線を併せ持った専門家」、または「専門家目線を併せ持った素人」であるべきと考えます。

ここで言う「素人目線」とは、常識や慣習に囚われない新鮮なものの見方のことを、「専門家目線」とは、十分な知識と経験に基づいた実践的なものの見方のことを指します。

 

「素人目線」と「専門家目線」が交差する “スイートスポット” を狙おう

そして、デザイナーは以下のように、「素人目線」と「専門家目線」を併せ持つことで見えてくる “スイートスポット” を意識的に狙うべきです。

素人と専門家 01

この “スイートスポット” とは、

専門家が気づいていないけれど、存在すればそれがスタンダードとなりうる新たなソリューション・体験

といったイメージです。

デザイナーに求められるのはこの “スイートスポット” を見つけ、適切にデザインする能力ではないでしょうか。

 

素人目線または専門家目線だけに偏ってはいけない理由

素人目線だけの場合

素人と専門家 02

デザイナーがデザイン対象分野の素人である場合、まず真にユーザーのことを理解していないため、潜在ニーズを捉えない表面的なアイデアやありきたりな解決案しか出ないでしょう。(自分自身、学生時代の課題を思い出します。)

または面白いけど実現性が極端に低いアイデアなど。

これらは説得力に欠けるため、専門家に受け入れられることは稀でしょう。

 

専門家目線だけの場合

素人と専門家 03

自身がデザイン対象分野の専門家である場合は、「慣れ(習熟化)」という問題があります。初めは疑問に思っていたことも、慣れによって認知のプロセスを飛ばしてしまいます。

認知的段階:特徴を感知し、状況を認識して、どうする?と考え、こうする、と決めて実施
 ↓
体制化の段階:特徴を感知し、状況を再認識して、一連の動作を実施
 ↓
自動化の段階:特徴を感知するだけで自動的に一連の動作を実施

参考:認知心理学とUIデザインに関するメモ | UX INSPIRATION!

新しい体験をデザインするには、意識的に初心者目線を取り戻す必要があります。

 

“スイートスポット” を意識して狙うためにできること

素人が専門家目線を得るために

素人と専門家 04

自身が専門ではない分野のデザインを行うときにデザイナーがまずすべきことは、ユーザーへの共感です。

僕が転職してまず行ったのは、

  • 文献調査
  • ユーザーインタビュー
  • 現場観察
  • 自分自身でユーザーの体験してみること

でした。

この中で一番共感度を高めることができるのは、自分自信が身を持って体験するWalk-a-mile immersion:相手の靴を履く)ことでしょう。

これらを繰り返すことでユーザーへの共感度が高まると同時に、専門家目線が得られます。(もちろんこの過程で、ユーザーの要求を抽出して分析したりすることも必要です。)

この過程で大事にしたいのは、「なぜ?」という新鮮な疑問です。一度しかない「素人」というタイミングで自然に浮かぶ「なぜ?」という疑問に、新しい体験のヒントが隠されていることは自身の経験上少なくありません。

こうして専門家目線を得ることで、少しずつ “スイートスポット” が見えてくることでしょう。

 

専門家が素人目線を得るために(個人編)

素人と専門家 05

自身が専門である分野のデザインを行うことは、自分をターゲットにしてデザインを行うことでもあります。(転職直前はほとんどこの状態に近かったです。)

ここで必要なのは素人目線、つまり既存の枠組みに捕らわれない新しい視点です。流行りの言葉で言い換えると「リフレーミング」が必要です。

そのために、個人レベルでは

  • 異分野に属する人とのコミュニケーション
  • スタートアップなどの新技術・新サービス情報収集
  • 「なぜ?」を5回繰り返す

といったことを行っていました。

意識的に、当たり前と思ってしまっていることを崩していく姿勢が大事でしょう。

 

専門家が素人目線を得るために(チーム編)

既存の枠組みに捕らわれない新しい視点は、個人だけでなくチームにも必要です。

企業が同じ事業を長く続けている場合、デザインチームは専門家集団になっていく可能性があります。事業会社であれば必ず訪れる壁でしょう。

この場合には、組織的に素人目線を取り入れて、 “スイートスポット” を見つけるためのエコシステムを作り出すことが必要ではないでしょうか。

そのためには以下の方法が考えられます。

  • エクストリームユーザーインタビュー(自社製品・サービスの尖った使い方をする人にインタビュー)
  • バイアス崩し(当たり前と思っていることを図式化し、その反対を考える)
  • 外部機関との共同プロジェクト(新鮮な第三者視点を得る)
  • オープンイノベーション(一般ユーザーを巻き込む)
  • 人事異動・人材の流動化(チームメンバーに多様性を持たせる)

このような取り組みはもはやデザイナーだけでなく、社内のステークホルダーを巻き込んで行うことでより効果が発揮されるでしょう。

 

まとめ

以上、インハウスデザイナーとしての自身の経験から、「新しい体験をデザインするために、デザイナーはデザイン対象分野の素人であるべきか、専門家であるべきか」を考察してみました。

結論としては、デザイナーはデザイン対象分野の「素人目線を持った専門家」または「専門家目線を持った素人」であるべきで、「素人目線と専門家目線が交わる “スイートスポット” を狙うスキルが必要」と主張しました。

素人と専門家 01

そのために、素人であればまず専門家であるユーザーに共感すること、専門家であれば素人視点でのリフレーミングをすることが必要であると説明しました。

 
特に本論では触れませんでしたが、この考察の大前提としては、デザイナーはデザインそのものに関しては「プロフェッショナル」であることです。たとえデザイン対象分野の素人であろうとも。

また、今回は主語を広く「デザイナー」と表記しました。新しい体験創出に携わるのはUXデザイナーだけに限らず、インダストリアルデザイナーやインタラクションデザイナー、ビジュアルデザイナーも同じであると考えたからです。

 
最後に、本記事の主張を一言で表す言葉を引用させていただきます。

「素人のように考え、玄人として実行する。」

これはカーネギーメロン大学教授で研究者の金出武雄氏の言葉です。(こちらの記事で知りました。)

デザイナーとしても心がけておきたい言葉です。

 
*** この記事は、UX Tokyo Advent Calendar 2014 に寄稿しました。***

Hiroki Hosaka

AIベンチャーのUXデザイナー/デザインマネージャー/CXO。メーカー→IoTベンチャー→外資系デザインコンサルを経て現職。このブログではデザインやUXに関するクリエイティブネタを発信しています。
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