メンタルモデルダイアグラム構築ワークショップ 参加レポート
(2020/11/08 更新)
UXデザイン |
エクスペリエンスマップ, メソッド, メンタルモデル, ワークショップ
photo credit: indiyoung via photopin cc
こんにちは、@h0saです。
先日、DevLOVE主催のメンタルモデルダイアグラム構築・分析ワークショップ 〜メンタルモデルを手に入れよ〜に参加してきました。
メンタルモデルダイアグラムとは簡単に言うと、「ユーザー心理の全体像を明らかにする手法」です。
以前、このブログでも取り上げさせていただきました。
参考:UXデザイン手法「メンタルモデルダイアグラム」の「ギャップ分析」が使えそう! | UX INSPIRATION!
今回のワークショップは監訳者の羽山さん、酒井さん、重村さんからアドバイスをもらえる貴重な機会でした。
ワークショップでは、『メンタルモデル ユーザーへの共感から生まれるUXデザイン戦略』の8章〜13章にあたる部分を体験しました。具体的には、以下のフローの★マークの部分です。
メンタルモデルダイアグラムを活用したUXデザインプロセス:
何を調べるか決める
↓
ユーザーを集める(4,5章)
↓
インタビューする(6,7章)
↓
★タスクを抜き出す(8章)
↓
★グループにしモデル化する(9,10章)
↓
★既存のプロダクトと比べる(11,12章)
↓
★改善案を考える(13章)
以下、振り返りを兼ねて学んだ内容をまとめました。
Contents
メンタルモデルダイアグラム構築WS 振り返り
前提
今回のWSの想定ビジネスは、「ニュースアプリ」。既存ニュースアプリを改善することが目的です。そのための調査として、オンラインを主な情報源としている人の心理を明らかにします。
今回は「テレビを見ない」「新聞を取らない」「ネットから主なニュースを得ている」という人3名に40分ずつ半構造化インタビューをしたという前提でした。
発話録は事前に配布され、読み込んでおくことが宿題でした。
(インタビュー時の注意点については、今回のワークショップのファシリテーターをされた羽山氏のSchooの授業が参考になります。当ブログでも取り上げさせていただきました。)
参考:ユーザーインタビューを行った後に気をつけるべき「選択的認知」とは | UX INSPIRATION!
以下、6つのステップでワークショップが進められました。
1. 発話録からタスクを抽出する(コーミング)
タスクとは:ユーザー心理が現れるところ。「動詞」を含める。
例)
◯ 通勤途中にtwitterを見る
× twitter
◯ グルメサイトでお店を探す
◯ お店の料理がおいしいか不安に思う
◯ 同行者の笑顔を想像する
→この発話録からタスクを抜き出す「コーミング」の作業が、結構大変です。上記例のように、ユーザーの行動から思考まで含んでいます。
このタスクの”粒度”を測るために、書籍で紹介されている「廊下テスト」という方法が参考になるので載せておきます。
適切な粒度かどうかに迷った時には、自分にこうたずねるようにしています。「これは、ユーザーが廊下を歩くときに考えることかしら?」たとえば、シルビアは、オフィスに向かって廊下を歩いているときに、こんなことを考えます。「ううん、仕事のサマリーを書いてビルに渡すのを、急がないといけないわ。彼の午後のプレゼンテーションに間に合うようにしないと。」一方で、次のようには考えないでしょう。「パソコンで、新しい文書ファイルを作成しなければならないわ。」前者のセンテンスには、さまざまな情報がつまっています。急ぐ必要があること、資料を渡してビルをサポートすること、サマリーに加工としている仕事とは何か、午後にプレゼンテーションがあること。
発話録から抜き出した、ユーザーの発言と対になっているタスクは「アトミックタスク」と呼びます。
2. アトミックタスクをグループ化する
続いて、抽出したアトミックタスクをグループ化します。
羽山氏いわく、40分のインタビューだと大体40個ぐらいのアトミックタスクを抽出できるとのことです。それを3人分なので、120個。
今回のワークショップでは、すでにグループ化されていたので体験はできませんでしたが、このグルーピングの作業も結構骨が折れそうです。
注意ポイントとしては、グルーピングする際に「軸」をつくらないこと。人の心理は軸で整理できないものが普通なのだそうです。
グループ化したタスクのイメージ:
3. タスクを積み上げてタワーにする
グループ化したタスクを、さらにグループ化してタワー状に積み上げ、そのタワーに名前(動詞)をつけます。
ここでのタスクのグルーピングで意識したのは、単にメディア(テレビ、SNS、新聞など)でまとめない、ということでした。目的はユーザー心理の全体像を明らかにすることなので、グルーピングする際の着眼点も「ユーザー心理」です。
例えば、「SNSで世の中の話題になっているものを知る」と「会社でSNSをチェックする」というタスクは「SNSで情報を得る」とまとめるのではなく、それぞれ「人間関係をスムーズにする」「一般常識を得る」というタワーにまとめました。
また、「会社でSNSをチェックする」ってそもそも何だっけ?といった疑問がチーム内で出た時は、2.のタスクシートを都度見返しました。これを見ると発話録まで遡れるので便利でした。
4. タワーをまとめてメンタルスペースをつくる
タワーの順番を並び替え、タワー同士をグループ化して境界線を引きます。このグループ化したタワー群を「メンタルスペース」と呼びます。
メンタルスペースの名前は書籍『メンタルモデル』では動詞でなくても構わないと書いてありますが、講師の羽山さんは「動詞がオススメ」とおっしゃっています。突然品詞を変えると、慣れない人はユーザー心理ではなく別の軸でまとめたくなってしまうからだそうです。
ここで、タワーについて注意したいのが、「タワーの高さはユーザー心理の強さや量とは関係がない」ということです。インタビューの設計や流れによって、似たようなタスクが多く出ることは普通だからです。
むしろ、大事なのは「幅」です。メンタルスペースの数やバリエーションが多いほど、ユーザー心理の全体像に近づけます。
タスクによってはどのタワーにも入らないものがあることがありますが、その場合はタスク1つでタワー1つにしても良いとのことです。無理にグループ化しないほうが、ユーザー心理の全体像をつかめるからです。
以上、見ていただくとわかる通り、メンタルスペース作成までに、グルーピングを4回行っています。
・発話録 → アトミックタスクを抽出(コーミング)
・アトミックタスク → タスク
・タスク → タワー
・タワー → メンタルスペース
グルーピングだけなら、見せ方としてわざわざタワー型に積み上げなくてもよい気がしますが、このようにタワーを横に並べてレイアウトするのは、以下の「ギャップ分析」をしやすくするためです。
5. ギャップ分析
今回はお題として、「Yahoo!ニュース」「SmartNews」「グノシー」から1つ選んでそのアプリを改善案を出すことになりました。
僕たちが選んだのは、「SmartNews」。このアプリが搭載する機能やコンテンツを洗い出し、4.まででできたメンタルモデルの下側に並べていきます。(下の写真の青い付箋。)
そして、ユーザー心理を満たせてない部分を明らかにします。これが「ギャップ分析」です。
6. アイディエーション
ギャップのあった箇所に対して、ユーザー心理を満たせそうなアイデア出しを行います。
僕たちのチームでは、例えば「専門性を深める」というユーザー心理に対して「TwitterだけでなくFacebookやRSSリーダーからもリンクを抽出」「興味の有無をアプリに伝える」といったアイデアが出ました。
最後に各チームで発表を行い、ワークショップは終わりました。
おわりに
WSを体験して思ったこと
今回のメンタルモデル構築ワークショップを体験して思ったのは、「非常に納得感のあるアイデアを提案できる」ということです。
僕のチームは初対面同士の4人(デザイナー2人、エンジニア2人)でしたが、その4人が納得感を持ってスムーズにWSを進められたのは、メンタルモデルダイアグラムの持つ力のおかげかと思います。
メンタルモデルダイアグラムではユーザー心理の全体像、そしてそれを満たせていない部分が視覚化されているため、アイデア出しの際も議論のポイントが明確になります。アイデアを提案するときも、明確な根拠を持って説明できます。
アイデアの1つ1つは、単純なブレストで出るアイデアかもしれません。しかし、メンタルモデルダイアグラムを用いることで、より説得力のある提案ができるのだと感じました。
イノベーティブなアイデア出しにも使えるのか?
今回はメンタルモデルダイアグラムを使って「改善案」を考えましたが、「イノベーティブなアイデア」を出すのにも使えるのかを最後に羽山さんに伺いました。
答えは「使えます」とのこと。これについてはもう少し自分でも検証して別途記事を書きたいと思っています。
自分の組織でも活用するために
こうしたUXの手法は、実際に活用するのには時間や組織など様々な壁があります。
書籍にも書いてありますが、まずは自分(と賛同してくれる仲間)でこっそりと作成してみて、「こんなの作りました」と紹介できるタイミングで紹介するのが良さそうです。ギャップ分析から生まれた優れたアイデアがセットだとなお良いですね。
もちろん、メンタルモデルダイアグラムは手法の1つに過ぎないので、その時に最適な手法と組み合わせたり、状況に応じてアレンジしたりすることは必要でしょう。
仕事で求められているのは最終的なアウトプットの質なので、手段(手法)が目的化しないように注意しつつ、ユーザー心理を満たすアイデアをどんどん提案していきましょう。